神に選ばれなかった者達 後編

萌音の両親は何も、「絶対に男の子じゃないと嫌だ」と思っていた訳じゃない。

最初からお腹の子が女の子だと聞かされていたら、こんなことにはならなかったはずだ。

希望していた男の子じゃないと聞いても、「仕方ないよね」と、早いうちから諦め。

気持ちを切り替えて、生まれてくる女の子…萌音…の為に、名前を考えたり、ベビー用品を揃えたりしたはずだ。

そして、心から祝福の気持ちを持って、萌音の誕生を心待ちにしたはずだ。

だけど、なまじヤブ医者に「お腹の子は男の子」だと言われて、期待してしまっていた分。

男の子だと信じて疑っていなかった分、落胆は大きかった。

特に、母親の方は。

父親は、生まれた子が女の子だと聞いて、驚きはしたものの。

すぐに納得して、元気な子が生まれてきたことを素直に喜んだ。

父親は、生まれてくる子が息子だろうが娘だろうが、あまり気にしていなかった。

そんな訳で、萌音は母親より先に、父親に抱っこしてもらったのだ。

父親は生まれたばかりの萌音を見て、とても喜んでいた。

…しかし。

問題は、萌音母だった。

萌音母は、生まれてきたのが希望していた男の子じゃなくて、酷く落胆し、失望していた。

父親も、萌音を取り上げてくれた女性医師も、看護師も、助産師も、何度も萌音母を説得した。

「元気な子が生まれてきたんだから良いじゃないですか」

「初めての子は、女の子の方が育てやすいですよ」

「ほら、見てください。お母さんそっくりの可愛い女の子ですよ」

…等々。

それでも萌音母は落胆したままで。

「何で男の子じゃないの?」とか、「◯◯君だと思ってたのに…」とか、あれこれ呟いていた。

…そんなこと。

萌音に言ったって、どうしようもないだろう。

腹の中に再び戻せば、性別が変わるとでも?

まだこの世に生まれてきたばかりなのに、一度も母親に抱いてもらったことがなく。

顔を見ては、落胆と失望の言葉ばかりかけられる。

そして萌音は、その時のことを未だに覚えているのだ。

親に存在を望まれないことほど、子供にとって辛いことはない。

同じ病院に入院している他の親子は、生まれてきた子を涙を流しながら抱っこして。

頬ずりせんばかりに可愛がっているというのに。

萌音はというと、母親の横の小さなベッドに寝かされたまま、一度も抱き上げてもらうことはなかった。

その悲しみや寂しさがどれほどのものか、これは体験した者でなければ分かるまい。

それに、名前。

萌音は元々、男の子だと思われていたから、萌音の両親は男児名しか考えていなかった。

しかし女の子となると、考えていた男児名をつける訳にはいかない。

名前について、父親は母親に相談したりもした。

だけど萌音の母親は、「◯◯君…」と、お腹の中に居た頃に呼んでいた男児名を呟くばかり。

これでは埒が明かないと、結局父親が一人で名前をつけた。

だから、「萌音」という名前をつけてくれたのは、この父親なのだ。

生まれてきた可愛い女の子に相応しい、可愛らしい名前だ。

おまけに呼びやすい。

この名前をつけてくれたことに関しては、俺としてはこの父親に感謝したい。