神に選ばれなかった者達 後編

萌音がもし、お腹の中で声が出せたら。

「違うよー、女の子だよー」と伝えただろうが。

残念ながら、それはまだ出来ない。

で、そのヤブ医者のせいで萌音母は、「念願の男の子!」とはしゃいだらしい。

萌音父にも嬉しく報告して、二人で男の子の誕生を待ち侘びた。

二人共、望んでいた男の子が生まれると聞いて。

生まれてくる男の子の名前を考え、男の子用のベビー服や玩具を買い。

それらの道具には全部、考えていた男の子の名前を名入れしてもらって。

お腹の子に話しかける時は、その男の子の名前で呼びかけた。

「◯◯君、元気に生まれてきてね〜」ってなもんだ。

…萌音は、そういった夫婦の会話を、母親のお腹の中で聞いていたのだ。 

その度に、「私、女の子なのになぁ…」と思っていたに違いない。

いくら萌音の両親が萌音を男の子だと誤解していても。

生まれてしまえば、嫌でも、萌音が女の子だということが分かる。

俺は萌音が生まれた時のことを覚えている。

まるで空から見守っているかのように。

何時間にも及ぶ陣痛の後、ようやく、萌音はこの世に誕生した。

ちなみに、萌音の母親が萌音を産んだ病院は、萌音を「男の子」だと言ったあのヤブ医者の病院ではなく。

県内にある、もっと大きな病院の産科で出産した。

そこでは女性の先生が分娩に立ち会って、その先生が萌音を取り上げてくれた。

元気な産声をあげる萌音を、笑顔で母親に抱き渡しつつ。

「おめでとうございます、可愛いお嬢さんですよ」と言った。

当然、その言葉には何の悪気もなく、祝福の気持ちを込めて告げた言葉だった。

しかし。

辛い陣痛の直後、疲れ切っていた萌音の母は。

「可愛いお嬢さん」の言葉に、きょとんとして。

「えっ…?」

はぁはぁと息を荒くしながら、そう聞き返した。

萌音母がその時期待していたのは、「元気な男の子ですよ」という一言だった。

最初は、きっと聞き間違いだと。

あるいは、この女性医師が性別を見間違えたのだと思った。

しかし。

「ほら、お母さん。抱いてあげてください」

女性医師は先程の言葉を撤回することなく。

笑顔で、生まれたばかりの萌音を抱かせようとした。

萌音母は、反射的に身を引いた。

「おとこ、のこ…」

「え?」

「男の子でしょう?◯◯君…」

萌音母は、赤ん坊がお腹の中にいる時から決めていた、男児の名前を口にした。

すると、女性医師は驚いて。

「いえいえ、女の子ですよ」

と言った。

今度は、萌音母がびっくりする番だった。