神に選ばれなかった者達 後編

大学教授という職業柄もあって、実際、あの人は凄く弁の立つ人だったからな。
 
おまけに、決して自分が間違っているかもしれない、とは思わない人だったから。

理論攻めと言うか、理屈攻めと言うか…。

こちらが正しいと思って話し始めても、母と話していると誰でも、そのあまりの堂々とした態度のせいで。

「あれ?もしかして間違っているのはこちらなのでは?」と思わせてくるのだから、始末に負えない。

誰も彼も、母の話術(?)に屈服してしまうのだ。

…それに、誰も本気で俺を助けようとしてくれる人なんて、いなかったからな。

本当の意味で、俺を心配し、俺をあの異様な母のもとから救い出そうとしてくれる人はいなかった。

そういう意味で、俺は誰からも愛されていなかったのだ。

生まれてから今日に至るまで、ずっと。

勿論、母からも愛されてはいなかった。

俺はただ、母の完璧な遺伝子を継ぐ優秀な後継者として、必要とされていただけで。

俺という存在が必要だった訳じゃない。

俺で駄目だったら、俺の代わりは、いくらでも作れる。

母は俺に失望したら、何の未練も躊躇いもなく、俺を捨てただろう。

俺はそのことが分かっていたし、母も当然そのつもりだった。

そして俺は、そのことが一番怖かった。

あんな母でも、俺にとっては、生まれてからずっと自分を育ててくれた存在だ。

母に見捨てられたら、俺は生きていけない。

だから、俺は必死に頑張った。

母に認めてもらえるように、母の期待に応え続けた。

それが俺の義務であり、養ってもらう条件でもあった。

俺は常に、「自分は養うに値する」と思ってもらえる証拠を、示し続けなければならなかった…。

…それは、まるで地獄のような毎日だった。