神に選ばれなかった者達 後編

先程俺は、自分のルーツが分からないと言ったな?

だけどそれは、佐乱李優という「人間」がこの世に生まれた経緯が分からない、という意味だ。

俺という「存在」は、それよりずっと前からこの世に居た。

…ごめんな。意味がよく分からないよな?

だったら、もっとはっきり言おう。

これまでずっと、この世に生まれてから生贄として、夢の中で戦っていた久留衣萌音。

そんな彼女を導いていた『声』。

それは、俺なのだ。

俺は、久留衣萌音を助ける為にこの世に生まれてきた存在なのだ。

普段萌音は、夢の中で武器を持っていない。

響也は錐を、みらくは手榴弾を。

空音いそらは鉄パイプを、空音のぞみは回復能力を。妹尾ふぁには弓矢を。

それぞれ持っているけれど、萌音にはそういった武器がない。

だからいつも、夢の中で、その場にある物を武器として使っている。

椅子とかガラスの破片とか、石とか。

何もない時は、素手で戦っている。

生来萌音は怪力の持ち主なので、それでも充分通用しているのが恐ろしいが。

とにかく、萌音だけ目に見える武器がない。

どうしてそんなことになったのか?…もしかして、神様の手違い?

…そんなことはない。

俺だ。

萌音の武器は、俺なのだ。

萌音をずっと導いていた『声』。

それこそ、萌音の武器。

ある意味では、最強の武器だろう?

そして、その『声』の正体は俺だ。

俺はずっと、最初から、萌音が初めて夢の世界に来た時から。

萌音の傍にいて、『声』によって萌音を導いてきた。

それが俺の存在理由だった。

…しかし、萌音は養父である久留衣家の父親から、『声』が実体を持って、姿を現してくれたら良いのに、と言われた。

多分、深い意図がある訳ではなく、単なる思いつきでしかなかったのだろうが。

その思いつきは、それまでの俺と萌音の関係を、劇的に変化させた。

ただの『声』でしかなかった俺が。実体を持たない、概念的な存在でしかなかった俺が。

萌音の願いによって、実体を持つことが出来た。

萌音は大したことはしていない。彼女はただ、願っただけだ。祈っただけだ。神様にお願いしただけだ。

「『声』の主に会いたい」と。

俺はその切なる願いのもと、この世に生まれた。

ある日突然、「佐乱李優」という、一人の人間として。

そして萌音と共に生贄として、一緒に夢の中で戦うようになった。

生贄本人の願いによって、武器の形態が変化するなんて。

一体どうして、萌音にそんなことが出来たのかは分からない。

神様の気まぐれだろうか?それとも、生贄としての萌音の才能だろうか。

…いずれにしても。

俺は、萌音を助ける為に生まれた。萌音の孤独を満たす為に。

それは、萌音だけでなく…俺にとっても、幸福なことだった。