神に選ばれなかった者達 後編

何とか、根掘り葉掘りあれこれ聞きまくって。

俺は、萌音ちゃんがこの世に生まれた時から、夢の中でバケモノと殺し合っていることを知った。

…にわかには信じられない。

子供がよく言う作り話かと思った。

他の子だったら、きっと「作り話」だと思っただろう。

だけど、萌音ちゃんのそれは、決して作り話ではなかった。

それだけは確かだ。

まだ萌音ちゃんと暮らすようになって、僅かな時間しか経っていないけれど。

だけど、萌音ちゃんは嘘をつかない。

この家に来てから一度も、萌音ちゃんは嘘をついたことがなかった。

言い逃れをしようとしたり、言い訳をすることもなかった。

強い暴力性を抜きにしたら、萌音ちゃんは凄く良い子なのだ。

素直だし、大人の言うことをよく聞くし。

そして、人を騙したり、悪口を言うこともない。

ただ、唯一の問題が、すぐに人に暴力を振るうこと…。

…だけど、萌音ちゃんがさっき言ったことが、本当なのだとしたら。

萌音ちゃんの持つ暴力性も頷ける。

夢の中で、毎晩バケモノと戦っている…。

それも最近始まったことじゃなくて、生まれた時からずっと…。

驚くことにその夢の中では、痛みも苦しみも現実と同じように感じる。

夢の中で、これまで何度も、数え切れない傷ついたり、死んだりしたこともあるとか。

だけど、夢の中では決して完全に死ぬことはなくて。

死ぬ度に、リセットされて蘇る。

そしてまた、改めてそのバケモノと戦う…。それを延々と繰り返す。

地獄のような苦痛を味わい続ける毎日。

バケモノには当然、人の言葉は通じない。

「痛い」と言っても「やめて」と言っても、その声が誰かに届くことはない。

容赦なく、永久に苦しめられ続ける日々…。

萌音ちゃんは、毎晩のようにそんな苦痛を味わっている。

その不思議で残酷な夢の世界で、萌音ちゃんは『声』という唯一の味方に導かれて、バケモノと戦っている。

信じられない。とても信じられないけど…でも、萌音ちゃんは決して嘘はつかない。

つまり、本当なのだ。

信じられないことだと思うけど、確かに本当なのだ。

本当にそんな夢の世界があるのかどうかは分からない。

でも、少なくとも、萌音ちゃんにとっては紛れもない真実。

それが幻覚だろうと、ただの夢だろうと…実際に萌音ちゃんが痛みと苦しみを味わっているのなら、それは真実なのだ。

そして俺は、萌音ちゃんがどうしてこんなに喧嘩っ早いのか、その理由を知った。

これまで俺は、てっきり、萌音ちゃんの実の両親から虐待を受けていて。

萌音ちゃんの暴力性は、その両親から受け継いだものだと思い込んでいた。

でも、そうじゃなかった。

夢の中で、ずっと戦ってるから。

殺さなきゃ殺される。萌音ちゃんがそう言っていた理由もこれだ。

萌音ちゃんにとって暴力というのは、苦痛や困難から逃れる、唯一の方法なのだ。

夢の中でそれを学んでいたことから、現実でも同じように、言葉より先に手が出てしまう…。
 
きっと、そういうことなんだろう。