神に選ばれなかった者達 後編

こういうことは、もう少し時間をかけて、少しずつ萌音ちゃん自身が打ち明けてくれるのを待つべきなのかも知れない。

だけど、萌音ちゃんが自分から打ち明けてくれるのを待っていたら、それまでに何人、傷つけてしまうか分からない。

これ以上、痛い思いをする人を増やしたくない。

そして、萌音ちゃんにも…これ以上、人を傷つけて欲しくなかった。

「…ねぇ、萌音ちゃん」

「んー…?」

同じ部屋の中で、並んで布団に横になって。

俺は、ついに核心に迫った質問をすることにした。

萌音ちゃんは既に眠そうな声だったけど、もう少し頑張って欲しい。

「どうして萌音ちゃんは…。…えぇと…」

何で人を殴るの?と聞きそうになって。

それはあまりにストレート過ぎると思って、もう少し回りくどく聞こうと思った。

「…覚えてるよね?昨日のこと…。学校のお友達にしたこと…」

…ごめん。回りくどく聞こうと思ったのに。

意外とストレートに聞いちゃった。

「うん」

萌音ちゃんは、素直に頷いた。

…自分のやったことを、嘘をついて誤魔化そうとしたり、言い逃れをすることはない。

それは…萌音ちゃんの素直な良いところだと思うんだけどな。

「何で、あんなことしたの?お友達に…」

「だってあの子、萌音のこと笑ったから」

「笑ったからって…。それは、殴られるほど悪いことなの?」

「悪いことじゃないの?」

…そう聞かれると、返事に困るけど。

「確かに悪いことだよ。人を馬鹿にしたり笑ったり…。それはいけないことだけど、だからって殴っちゃ駄目だよ」

「…?」

「殴ったりせずに、言葉で伝えるんだよ。『笑わないで』、『やめてね』って」

萌音ちゃんは、納得の行かなさそうな顔。

勿論、言葉で伝えても分かってもらえない、という言い分は分かる。

誰もが萌音ちゃんみたいに、素直な子ばかりじゃないからね。

特に小学生くらいの子供は、「やめて」って言うと調子に乗って、更に嫌がらせを繰り返す傾向にある。

言葉で言っても分かってくれないなら、殴って分からせるしかない…。

…その理屈も、納得は出来ないけど、理解は出来る。

だからって、暴力は認められない。

どんな理由があっても、だ。

世の中では、大抵の場合、理由なんて関係なく「暴力を振るった方が悪い」とみなされてしまうから。

本当は萌音ちゃんが悪いんじゃなくても、暴力を振るった時点で、萌音ちゃんが悪いことになる。

萌音ちゃんを悪者にはしたくない。

その為には、手を出す以外の方法で、自分の気持ちを相手に伝える手段を学ばなければならない。

「手を出すんじゃなくて、言葉で伝えよう。話せば、きっと分かってくれるから」

「…分かってもらえなかったら?」

「その時は、パパやママは先生や、別の大人の人に伝えてごらん。必ず助けてあげるから」

隣の席の子が萌音ちゃんのことを笑って、やめてって言ってもやめてくれないの、って。そう言葉で教えてくれたら。

俺の方から学校の先生にやめるよう伝えてもらうし、何なら相手方の親御さんに、こちらから直接伝えても良い。

相談さえしてくれれば、必ず、どんな形であっても萌音ちゃんを助ける。

「だから、暴力で解決するのだけはやめて。それは萌音ちゃんの為にもならないから」

「…何で?」

「…良い?萌音ちゃん。自分がされて嫌なことは、人にもしちゃいけないんだよ」

この基本的な約束事から、まずは教えなければならなかった。