神に選ばれなかった者達 後編

…って、そうじゃなくて。

「萌音ちゃん、昔からそうなの?」

「ふぇ?」

「昔から萌音ちゃんは、そんなに記憶力が良いの?」

「…」

萌音ちゃんは、不思議そうな顔。

「…覚えてるの、普通じゃないの?皆、覚えてないの?」

「そ…そうだね。よっぽどのことがない限りは…」

先週の今日のお昼ご飯…なんて。

その時余程美味しいものを食べたとか、外食に行ったとか…。

そういう、特別なことがない限りは…なかなか思い出せないかな。

先週ならまだしも、先々週とかになるともう無理。

「忘れちゃうの?」

「…大抵のことは…」

「忘れちゃうの、怖くないの?」

「…いや…」

怖い?…忘れるのが?

…考えたことがなかった。

「家族のこととか、仕事のこととか…そういう大事なことは覚えてるけど…」

自分にとってそれほど大事ではない、優先順位の低い事柄に関しては…忘れてしまっている。

それは誰しもそうだと思っているし、全てを覚えていることは出来ない。

「重要じゃないことは…忘れちゃってるかな」

「…怖くないの?」

「怖くは…ないね。それが当たり前だと思ってるから…」

…当たり前、じゃないの?

こう…認知症で記憶力が低下している、とか…覚えていなきゃいけないことさえ忘れている、とかだと…大変困るけど…。

「萌音は忘れるの、怖い」

「…そうなの?」

「うん。今覚えてること、一つでもなくなっちゃったら…その時萌音が生きてたことも、なかったことになるような気がして…」

「…」

「だから全部覚えておくの。忘れないように書いておくの。書いておけば、いつか忘れちゃっても…読めば思い出せるでしょ?なくなったりしないでしょ?」

「…成程。…そうだね」 

…今まで、そんな難しいこと考えたことがなかったけど。

確かに、萌音ちゃんにそう言われると…そうかな、って思ってしまう。

何より、萌音ちゃんが自分のことを話してくれた。

初めて、自分の思っていることを打ち明けてくれた…。

それが嬉しかった。

「それじゃあ…毎日、頑張って書かないとね」

「うん」

心做しか、萌音ちゃんも嬉しそう。

…だけど。

それだけに、分からない。

萌音ちゃんはこんなに素直で、ちゃんと勉強もして…優れた記憶力も持っていて。

それなのに何で、萌音ちゃんはあんな…小さな身体に似合わない暴力性を持っているのか?

これを確かめないことには、萌音ちゃんの心の中を完全に理解することは出来なかった。