神に選ばれなかった者達 後編

宿題?と一瞬思ったけど。

今日は学校に行かなかったんだから、宿題が出ているはずもなく。

ママも、特別萌音ちゃんに明日までの宿題を出したとも言ってなかったし…。

それなのに萌音ちゃんは、鉛筆を手に取り。

机にノートを広げて、猛烈な勢いで何かを書き始めた。

それはもう、見たことがないくらい真剣な顔で。

び…びっくりした。

こんな小さな子が、こんな真剣な表情をしているなんて。

「も…萌音ちゃん?」

「…」

萌音ちゃん、ついに無視。

「萌音ちゃん、おーい…。萌音ちゃーん…」

「…」

あ、駄目だこれ。

下手に後ろから肩を触ろうものなら、俺も鳩尾にパンチを食らいかねない。

物凄い集中力で、カリカリと鉛筆を…。いや、ガリガリといった勢いで鉛筆を動かしている。

…一体何をやってるんだろう。

俺は萌音ちゃんの邪魔をしないように、そーっと、後ろから萌音ちゃんのノートを覗いた。

そして、またしてもびっくりした。

記録だ。

萌音ちゃんが、今日何時に起きて、何を食べて、何時に何をして、どんな風に一日を過ごしたか。

その記録が、つらつらと書き連ねてあった。

ノートに隙間なく、びっしりと。

「…これ…」

萌音ちゃんが、大きなスーツケースに入れて持ってきた大量のノート。

自分の洋服より、玩具よりも優先させて持ってきた、萌音ちゃんの日記帳…。

今も、ずっと書き続けてたんだ。

こんな風に書いてたんだ…。こんなに集中して…こんなに詳細に…。

…いや、待て。

これ、いくらなんでも詳細過ぎないか?

萌音ちゃんは、何時にこんなことをして…どころか、何時何分に何をした、というところまで書いていた。

朝ご飯は7時14分。食パンといちごジャムと、コンソメスープと目玉焼きを食べて。

その時一緒に牛乳を飲んで、食べ終わったら、その後、午前9時2分にママに「一緒に勉強しよう」と誘われて。

最初に勉強したのは算数で、計45分。

足し算と引き算のドリルを各20問ずつ問いて、そのうち15問が正解だった。

それから次は、休憩を10分挟んで、9時57分から今度は国語の勉強を始めて。

教科書の50ページから55ページを音読して、それから漢字の勉強をして、その漢字の種類は…。

…みたいなことを、ひたすら、書き連ねていくのだ。

…普通、こんなこと覚えてるか?

どんな授業を受けたかは覚えていても、百歩譲って、教科書のページ数は覚えていても。

計算ドリルの問題の正解数だの、勉強を始めた正確な時間だの、そんなのわざわざ記憶しているだろうか?

しかも萌音ちゃんは、どんな問題を間違えて、その時ママにどう教えてもらったか、に至るまで。

正確な台詞を、まるでドラマの台本でも作るかのように、ちゃんと記憶して書いていたのだ。

…信じられない。

こんな詳細な記憶、大人だって覚えていない。

それなのに、まだ小学生の萌音ちゃんが、これほど驚くべき記憶力を持っていることに呆然とした。