神に選ばれなかった者達 後編

その日から、萌音ちゃんは停学処分期間となる為、学校には行かない。

代わりに、日中はママと一緒に勉強したり、お手伝いをしたり、ママの買い物に一緒についていったり…。

とにかく、学校に行かないからって、ダラダラとサボるように過ごすことは許さなかった。

萌音ちゃんは嫌がるかな、と思ったのだけど。

仕事が終わって家に帰ってきてみると、ママから非常に芳しい報告を受けた。

萌音ちゃんは、ママの言うことをきちんと聞いたらしい。

ママが「勉強しよう」と言ったら、教科書とノートを広げて、問題を解いたり教科書を読んだり。

「夜ご飯を作るお手伝いをして」と言えば、それにも素直に応じたらしい。

と言ってもまだ小1だから、火を使ったり包丁を使うことはさせず。

ピーラーで野菜の皮剥きをしたり、鍋をかき回したり。それくらいだけど。

「庭の草むしりをして」と言えば、一人で黙々と、庭に草を一本も残さず綺麗にしてくれた。

「お風呂掃除を手伝って」と言えば、教えた通り、スポンジでゴシゴシとタイルの壁や床を擦ってくれた。

「いや」とも、「やりたくない」とも言わない。非常に素直。

これには、ママも拍子抜けしてしまったそうだ。

てっきり「しなさい」「やりたくたい」の応酬になると思っていたのに。

萌音ちゃんがあまりに素直に、それもサボることなく黙々とこなすものだから。

夕方頃には、ついに頼むことが何もなくなって、おやつタイムにしてあげたとか。

うん。これは大変良いことだ。

良いことなんだけど…でも、釈然としない。

家の手伝いや勉強は、あれほど素直なのに。

何だって、他人を傷つけることに関しては一切の容赦も、躊躇いもないのか…。

ママも、そのことが不思議でならないと言う。

素直に勉強とお手伝いをしてくれたご褒美にあげたアイスクリームを、美味しそうにもぐもぐ食べている姿を見ると。

とても、昨日あんな酷い暴力行為を行って、一週間も停学になったとは思えない…と。

…俺もそう思う。

昨日の萌音ちゃんと今日の萌音ちゃんは、まるで別人のように見える。

でも、同一人物なのだ。紛れもなく。

素直で、大人の言うことをよく聞く良い子で。

その反面、他人の痛みに酷く鈍感で、他人を傷つけることに容赦がない…。

この相反する二面性を、どう理解すれば良いのか。

その為には、まだまだ時間がかかりそうだった。

…それはそれとして、良いことをしたなら褒めなければならない。





夜、寝る前のこと。

「萌音ちゃん、今日、いっぱいお手伝いしてくれたんだって?」

「ほぇ?」

萌音ちゃんは、きょとんとしてこちら振り向いた。

…この顔、よくするよな。この子…。

「ママが言ってたよ。萌音ちゃん、凄く良い子だったって」

「…ふーん…」

「ありがとうね。萌音ちゃんが綺麗にしてくれたお陰で、お風呂場も庭もピカピカになったよ」

こうしてたくさん褒めることで、萌音ちゃんの明日からのモチベーションを維持、促進…。

…と、思ったのだけど。

「萌音ちゃんは、よくお手伝い、」

「よいしょ、っと…」

「…何してるの?」

「ふぇ?」

萌音ちゃんは、全然俺の話を聞いていなかった。悲しいことに。

それよりも、目の前にノートを広げ、鉛筆を持っていた。