神に選ばれなかった者達 後編

朝イチから、非常に困惑している。

萌音ちゃんが何言ってるのか、全然分からない。

「えーっと、萌音ちゃん…。それ…絵本か何かの話?学校で読んだの?」

うちにも絵本は何冊かあるけれど、そんなグロテスクな内容の絵本はないはず。

「…絵本?絵本じゃないよ」

「え…。じゃあ、…アニメ…?…じゃないか。萌音ちゃん、テレビ観ないもんね…」

萌音ちゃんは、今時よくいるテレビやゲームが大好きな子供じゃない。

この家に来てからというもの、萌音ちゃんがテレビを観ている姿を見たことがない。

大抵いつも、じーっとして、ボーっとして…。

何が楽しいのか分からない、みたいな顔をして…。

「えぇっと…それじゃ、夢の話?昨日、そんな夢を見たの?」

思いつきで、そう尋ねただけなのだが。

萌音ちゃんは「夢」という言葉に、大きく反応した。

「夢…。…そう、夢だ」

あ、やっぱり夢なんだ…。

「そっか…。なかなかスリリングな夢を見るんだね、萌音ちゃんは…」

「…すりんぐ?」

ごめん。子供にはまだ難しかったかな。

「えっと…何だか映画みたいな夢だね」

「映画じゃないよ。夢だもん」

「そ、そうだね。…怖かった?」

「怖くないよ。…いつもそうだから、怖くない」

…いつも?

「いつも怖い夢見るの?萌音ちゃんは…」

それは、非常に問題である。

よく寝てるから大丈夫だと思っていたけれど、でも悪夢を見ているのなら…。

夢は、その時の本人の精神状態を表すって言うだろう?

萌音ちゃんの心がさざ波のように揺れているから、それで怖い夢を見ているんじゃ…。

「大丈夫だよ。…『声』が、萌音を守ってくれるから」

「『声』…?」

「萌音の大切なものなの」

…と言って。

もうこの話はおしまいとばかりに、萌音ちゃんは布団から起きて、立ち上がった。

…どうにも、この時の話が気がかりだったけれど。

でも、想像力豊かな子供は、色々な夢を見るものだ。

萌音ちゃんに限った話じゃない。

昨日はイルカに乗って泳ぐ夢を見たんだとか、UFOを操縦する夢を見たんだとか。

そんなファンタジーな夢を見たという話を、これまで他の子供達から色々聞いていたから。

だから、萌音ちゃんの「それ」も、その一種なのだろうと思っていた。




…それが、大きな間違いだとも知らずに。