神に選ばれなかった者達 後編

萌音ちゃんは、「捨て子」という言葉に激しく反応した。

さっきまで、何を言われてもけろっとしていたのに。

その一言で、まるでスイッチが入ったように。

話し合いの机の上に置かれていた湯呑みのお茶を、思いっきり相手のお母さんにぶち撒けたのである。

「きゃぁっ!?」

「!萌音ちゃん!?」

目にも止まらぬ突然の行動に、俺も、ママも、その場にいた先生もぎょっとした。

幸い、お茶はだいぶ冷めていたから、火傷をすることはなかったが。

「な…何する、ぎゃっ!!」

ゴッ、と音がして、相手のお母さんの顔が仰け反った。

萌音ちゃんが、空っぽになった湯呑みを、お母さんの額めがけて投げたのだ。

だけど、萌音ちゃんはまだ容赦しなかった。

彼女はテーブルの上に飛び乗って、相手のお母さんの首を両手で掴んだ。

そして、渾身の力を込めて、その首を絞めたのである。

子供のはずなのに。たかだか小学一年生の女の子なのに。

「ぐっ…。…げぇっ…」

完全に不意を突かれた相手のお母さんは、一瞬にして顔が真っ赤になった。

必死に抵抗して、萌音ちゃんの顔を引っ掻いたり、もがいて脱出しようとしたが。

萌音ちゃんは、決して離さなかった。

「私は捨て子じゃない…。捨てられてなんかいない…私は、私は…」

まるで人が変わったように、萌音ちゃんは相手のお母さんの首を絞め続けた。

あの子を、こんな歳で人殺しにする訳にはいかなかった。

我ながら大人げないと思うが、渾身の力で萌音ちゃんを突き飛ばした。

こうでもしないと、彼女は手を離してくれそうになかったから。

大人の男に突き飛ばされたせいで、ようやく萌音ちゃんは手を離してくれた。

「げほっ…げはっ…」

相手のお母さんは、激しく肩を上下させながら、その場に両膝をついて必死に息をしていた。

…良かった。無事だった。

いや、これは良かった言えるのか?

「こ、このっ…。人殺しっ…人殺しっ…!」

あまりの衝撃に、顔を真っ赤にして涙を溢しながら、萌音ちゃんに向かって怒鳴りつけた。

人殺し。

その言葉に、萌音ちゃんのみならず、俺も激しいショックを受けた。

人殺し、だなんて。

まだ殺してないのだから、人殺しと称するのは間違いだ。

だけど…実際これだけのことをしたのだから、「人殺し」と称されても仕方がなかった。

「このバケモノっ…!あんたなんてバケモノよ!普通の子供じゃないわ。あんたは異常な、子、」

「…何?」

俺に突き飛ばされて、床に倒れていた萌音ちゃんが。

鋭い目をして、こちらを向いた。

その顔には、怒りが滲んでいた。

怒り。

初めて見た、紛れもない、本物の萌音ちゃんの感情だった。

「バケモノ…?バケモノはそっちだ…。萌音じゃない…」

萌音ちゃんは、ゆらり、と立ち上がった。

普段の姿とは、まるで別人のように見えた。