神に選ばれなかった者達 後編

「一体どういう教育をしてるの?うちの子が何したって言うのよ!?」

「申し訳ありません。全ては私達の監督不行き届きのせいです」

もう何度繰り返したか分からないやり取りをして、俺は深々と頭を下げた。

相手のお母さんが怒るのは当然だった。

だから、こちらが謝るのも当然だった。

「あの子は…まだ、精神的に不安定で…。新しい環境に来たばかりで…」

「精神的に不安定だったら、クラスメイトを殴っても良いわけ!?」

ごもっとも。

新しい環境に慣れてなくて云々は、こちらの事情であって。

クラスメイトには関係ない。

「それに、何よ。見たところ、全然不安定そうには見えないけど!?」

と、相手のお母さんは萌音ちゃんを睨みつけた。

萌音ちゃんは俺とママの横に座って、けろっとしていた。

自分が原因で怒られているということを、彼女は理解しているのかいないのか。

いずれにしても、反省の態度は一切見えなかった。

何よこの子、悪びれもせず。

きっとそう思っていたのだろう。

俺だって、もし相手のお母さんの立ち場だったら、きっと同じことを思っただろうから。

本当は、俺達と一緒に、嘘でも、謝って欲しかった。

だけど萌音ちゃんは、何が悪いのか全く分かっていないようで…。

…こうなったら、親である俺達が、萌音ちゃんの代わりに必死に謝るしかなかった。

「本当に申し訳ありません…。私達の監督不行き届きです」

また同じことを繰り返して、俺は深々と頭を下げた。

ママも同じように、横で土下座せんばかりに謝っている。

何度も同じやり取りをして、いい加減堪忍袋の緒が切れたのか、それとも埒が明かないと思ったのか。

「…あぁ、もう良いわ!」

相手のお母さんはそう言って、その場から立ち上がった。

「これだから、捨て子と同じクラスはだったのよ!ろくな教育がされてないんだから」

と、いう毒のある捨て台詞。

相手のお母さんは、俺達と萌音ちゃんに血の繋がりがないことを知っていた。

特に吹聴して回った訳ではないけれど。

この小学校の保護者の間では、俺達が身寄りのない子供を預かって、この学校に通わせていることを、暗黙の了解のように知っていた。

知っていながら、大抵の親は、気を遣ってそっとしておいてくれた。

しかし一方で、「親のいない子=問題のある子」という、間違った偏見を持っている親も、一部ではあるが存在している。

普段はこのお母さんも、俺達の家の事情を理解して、敢えて何も言わずに気を遣ってくれていたのだろうが。

実の娘が、その「問題のある子」に暴力を振られて。

思わず、我慢が出来なくなってしまったのだろう。

相手の気持ちも分かるけど、そのように言われるのは、俺としても心が痛かった。

「そんなことはない」と言いたかった。

だけど、今回ばかりは何も言えなかった。

何せ、悪いのはこちらなのだから。

「親のいない子は問題のある子である」と誤解させるようなことを、してしまったのだから。

悔しいけど、何も言い返すことら出来なかった。

ママも、同じ気持ちだったのだろう。

悔しそうに、ぎゅっと両手を握り締めていた。

…しかし。

萌音ちゃんは、俺達と同じように黙ってはいなかった。