神に選ばれなかった者達 後編

…で、改めて、萌音ちゃんに「何でこんなことをしたのか」と聞いたところ。

彼女は何が悪いのか分からないという顔で、「だって、萌音の物を勝手に盗ったから」と答えた。

そうなのだ。彼女にとっては。

それが例え、汚れたティッシュペーパーだろうと、何なら、消しゴムのカスに至るまで全部。

萌音ちゃんの物は、萌音ちゃんの物。

絶対に他人には渡さないし、他人が勝手に持っていったら「盗まれた」と感じる。

そして、容赦のない攻撃をするのだ。

萌音ちゃんの攻撃には、本当に容赦というものがなかった。

子供が叩く時は、大抵、平手でぱちんと叩くものだと思っていたが。

萌音ちゃんの場合、妙に堂に入った動きで、握り拳を固めて思いっきり殴る。

叩くんじゃなくて、殴る。

それも渾身の力を込めて、思いっきりぶん殴るのだ。

そりゃ鼻血だって出る。

しかも、年下と同い年の相手ならともかく。

自分より大きい相手でも、関係なく牙を剥くのだ。

あれは、二日前の夜のこと。

この間萌音ちゃんに殴られて大泣きしていた、あの年少の女の子が発端だった。

あの子が玩具を片付け忘れて、その片付け忘れた玩具を、萌音ちゃんが誤って蹴躓いてしまった。

それがきっかけだった。

萌音ちゃんは、淡々と女の子を殴った。

ぶん殴った。

絵里衣ちゃんにそうしたように、側頭部を渾身の力で。

甲高い女の子の泣き声がして、階下で別の子の宿題を見ていた俺は、まさか、と思って立ち上がった。

しかしその前に、騒ぎを聞きつけた年長の男の子…高校生…が、女の子部屋に駆けつけた。

部屋に飛び込んで、泣きじゃくる女の子を見て、年長の男の子は急いで庇った。

「何してるんだ!」と。

…しかし、萌音ちゃんはその時点で。

止めに入った男の子さえ、自分の「敵」だと認識した。

そして彼女は、自分の敵に対して、一切容赦しないのだ。

俺が、その現場に辿り着いて見たものは。

萌音ちゃんは、男の子の鳩尾に拳を捩じ込んでいる姿だった。

「ぐはっ…」

いくら年下の女の子といえ、渾身のパンチを鳩尾に食らったら、さすがに膝をつく。

こんな小さな女の子に、力で負けるはずがない…という慢心もあったのだと思う。

俺だってそう思っていた。

これまで萌音ちゃんが幾度となく暴力を振るってきた、その相手はいつも。

自分と体格の同じ同級生か、あるいは年下の弟妹だった。

まさか、年上で、しかも男の子が相手でも、関係なく手を上げるとは思っていなかった。

普通なら、いくら飛びかかったって、体格の立派な男子高校生が相手では、まるで歯が立たないはずだった。

…しかし。

萌音ちゃんはまず、鳩尾を狙った。

頭でも背中でもなく、的確に急所を。

そして、思わず膝をついたところを、続けざまに殴りかかった。

今度は顎だった。

顎に容赦ない掌底を食らって、唾を吐きながら真上を向いた。

こんな的確な攻撃を受けるとは思ってなかったのだろう。

何もかも、まともに食らってしまった。

「げほっ…うぇっ…」

男子高校生が、たった6歳の女の子に完全敗北した瞬間だった。

呆然と見ていた俺も、唾液を垂れ流しながら鳩尾を押さえる年長の男の子も、まったく予想していない展開だった。