神に選ばれなかった者達 後編

萌音ちゃんと暮らし始めて、一週間が経過した。

…8回。

この回数は、萌音ちゃんが兄弟に暴力を振るった回数。

…4回。

こちらの回数は…萌音ちゃんが新しく通うようになった小学校から、呼び出しを受けた回数である。

これだけで、この一週間がどれほど長く感じたか、理解してもらえると思う。

学校に行くのは平日の5日間のみ。その5日間のうちに4回も呼ばれているのだから。

実質、呼ばれなかったのは一日のみである。

学校からの度重なる呼び出しに、対応してくれたママ曰く。

いつまた学校から電話かかかってくるか、気が気じゃなかったという。

そして電話が鳴る度に飛び上がって、震える手で受話器を取り。

それが廃品回収業者からの電話勧誘だった時は、思わず受話器の前で腰が砕けたそうだ。

最初の2回までは、呼び出しの対応をママに任せていた。

しかし3回目からは、事の重大性を理解して、俺もママと一緒に学校に行った。

そしてそこで、ぺこぺことコメツキバッタみたいに謝った。

この一週間で、もう軽く3ヶ月分は謝ったような気がする。

更に、家の中でも、萌音ちゃんは8回。

8回も、他の兄弟を泣かせていた。

どれもこれも、つまらない理由ばかりだった。

萌音ちゃんの服を勝手に盗もうとした、から始まり…。

萌音ちゃんの文房具を勝手に触っただとか、萌音ちゃんの分のおやつに手を出そうとしたとか。

それどころか、もっと些細なことでも、彼女は自らの暴力性を爆発させた。

些細なことってどんなことか、って?

例えば、食事の時にちょっとテーブルを汚してしまって、それをティッシュペーパーで拭くだろう?

で、萌音ちゃんはそのちり紙を、食事の後で捨てようと、自分の手元に置いておいたのだが。

それを見た絵里衣ちゃんが、食べ終わった食器をシンクに運ぶついでに、そのちり紙を一緒に捨ててきてあげる、と。

単なる親切心で、萌音ちゃんの手元から丸めたティッシュペーパーを拾い上げた。

自分の代わりに、ゴミをゴミ箱に捨ててくれるのだから、普通は「ありがとう」と言うべきところだ。

初日は全然話せなかったけど、絵里衣ちゃんはまだ、萌音ちゃんと仲良くしようと努力していた。

些細なことでも、仲良くなるきっかけになればという、純粋な絵里衣ちゃんの好意だった。

…しかし。

次の瞬間に萌音ちゃんがしたことは、絵里衣ちゃんに「ありがとう」と、感謝の言葉を述べるのではなく。

絵里衣ちゃんの側頭部を、思いっきり殴りつけることだった。

絵里衣ちゃんは、勢いよく、食器ごとその場に倒れ伏した。

これには、その場にいた全員の目が点になっていた。

急いで、絵里衣ちゃんを助け起こしたけれど。

絵里衣ちゃんは側頭部を突然殴られたことで、酷くショックを受け、激しく取り乱していた。

それも当然のことだ。

仲良くしようと思ってる相手に、突然ぶん殴られたのだから。

痛みよりも、そのショックの方が、絵里衣ちゃんには堪えたに違いない。