神に選ばれなかった者達 後編

この時の一件は、これで収まったように見えた。

殴られた年少の女の子は可哀想だったし、ママは鼻血を流すその子を見て、かなり狼狽していた。

もっと深く追及するべきだとか、もっと厳しく叱るべきじゃないか、とか。

だけど、俺は首を横に振って、それを止めさせた。

何せこの時の俺は、萌音ちゃんが両親に暴力を受けながら育ったものと、勘違いしていたのだから。

俺は、そのことをママに話した。

萌音ちゃんにとって、暴力というのは身近なものなのだと。

でもそれは、決して萌音ちゃんの責任ではない。

そんな風に彼女を育てた、間違った両親のせいなのだと…。

俺の話を聞くと、ママも納得した。

…と言うよりは、同情…に近いのかもしれない。

こういうことは、非常に根の深い問題だから。

少しずつ、時間をかけて萌音ちゃんの認識を改めなければならない。

暴力は決して許されないんだってこと。手を出すんじゃなくて、言葉で伝えるべきなんだということ…。

それに、辛いことがあったら泣いても良いし、楽しいことがあったら笑っても良いんだってことも。

萌音ちゃんに教えてあげたかった。

しかし、すぐには無理だ。

彼女は新しい家にやって来て、そして新しい学校に通うことにもなるのだ。

環境の変化についていけず、本人も戸惑っているはず。

だから、新しい生活に順応するまでには、長い時間がかかるはずだった。

…その間に、俺は萌音ちゃんの人となりを、少しずつ学んでいこうと思っていた。




…しかし、それは容易なことではなかった。