神に選ばれなかった者達 後編

この時俺は、酷い誤解をしていた。

てっきり、萌音ちゃんはこれまで、両親に暴力を振られながら育ってきたのだと思ったのだ。

大人から、当たり前のように傷つけられながら育った。

だからこそ、萌音ちゃんは暴力というものに対して、一切抵抗がない。

容赦もしないし、手加減もしない。

暴力というものは、問題を解決する為の一番手っ取り早い手段だと思いこんでいる。

彼女がそんな風に考えるようになったのは、間違いなく、これまでの生育環境のせいに違いなかった。

誰も教えなかったのだ。萌音ちゃんに。

暴力は悪いことなんだよって、決して人を傷つけちゃいけないんだよってことを…。

それどころか、正しいことを教えるはずの親が、萌音ちゃんを殴りつけて育ててきた。

そんな両親のもとに育ってきたせいで、萌音ちゃんは当たり前のように両親を倣って、同じことをしている…。

…そう思い込んでいた。

確かに、一部では、それは間違っていなかった。

萌音ちゃんにとって、暴力というものは。

誰よりも何よりも、彼女の身近にあった。

だけど萌音ちゃんの両親は、決して、萌音ちゃんを日常的に叩いたり殴ったりしながら育てていた訳じゃない。

…それよりも、もっと複雑な事情を、彼女は抱えていた。

知らなかったのだ、何も。

この時点では、まだ何も。

萌音ちゃんが抱える深い闇のことも…夢の世界のことも。

…だけど、もし知っていたとしても。

可能な限り優しい言葉で励ましてあげる以外、何も出来なかったに違いない。