神に選ばれなかった者達 後編

結局萌音ちゃんは、スーツケースを頭の上に乗せて、両手でそれを支えながら。

ひょいひょいと、軽々階段を上っていった。

危ないから、万が一落としても転ばないように、後ろをついていったのだけど。

萌音ちゃんは涼しい顔で、けろっとして、スーツケースを持って階段を上り切った。

しかも…。

「萌音ちゃん…大丈夫?疲れてない?重かったでしょ?」

「ふぇ?」

何が?とでも言いたそうな顔。

そ、そっか…。

…この子がもうちょっと大きくなったら、お米を買いに行く時は、必ず萌音ちゃんについてきてもらおう。

きっと、買い物の負担がぐんと減るに違いない。

…気を取り直して。

「えっと…こっちが女の子部屋。今日から、ここで寝起きすることになるからね」

俺は、萌音ちゃんを女の子部屋に案内した。

「萌音ちゃんの荷物は、この押し入れの中に入れて保管してくれるかな。お洋服とか文房具とか、よく使うものは、こっちの棚に入れて…」

「うん」

「…スーツケース、開けても良い?一緒に荷解きしようか」

この大きさと重さ、今日中に全部荷解き…は無理かもしれないけど。

下着や洋服や寝間着や、すぐに使うものは、今のうちに出して、整理しておきたい。

こんなに大きなスーツケースを持ってきているのだから、きっと萌音ちゃんは衣装持ちに違いない。

…と、思ったけど。

「…え…?」

スーツケースを開けて、出てきたのは。

たくさんの子供用の洋服…ではなかった。

いや、洋服も入っていたけれど、ほんのちょっとだけだ。 

生活に必要な最低限の衣服や道具が占める割合は、大きなスーツケースの1割程度。

そしてそれ以外のスペースには、ぎっしりと…。

…ノート、が詰まっていた。

赤や青や緑などの、様々な色の大学ノート…。

それらが、スーツケースの大半の割合を占めている。

こんなものが入っていたのか。

道理で、スーツケースがやけに重かった訳だ。

「萌音ちゃん…これ…」

萌音ちゃんは、洋服の荷解きなんて見向きもせず。

まず真っ先に、大事そうに、たくさんのノートをスーツケースから取り出していた。

…それ、そんなに大事なものなんだろうか。

「萌音ちゃん…このノート、何?お絵描き帳?」

もしかして萌音ちゃんは、絵を描くのが大好きで。

自由帳代わりに、これらのノートを使っていたのかも知れない。

そう思ったのだ。

…しかし、違っていた。

これは決して、お絵描き帳などではなかった。

もっと切実で、萌音ちゃんにとってとても大切なものだった。

「ううん」

「お絵描き帳じゃないの?…じゃあ、何?」

「…萌音の記憶」

…そういえば、さっきもそんなこと言ってたね。