神に選ばれなかった者達 後編

俺が物心つく前から、母の英才教育は始まっていた。

母は、自分の経歴をより完璧にする為に、優秀な後継者を必要としていた。

その為に、俺を産んだのだ。

母にしてみれば、完璧な自分の子なのだから、同じように完璧でなければ困る。

だからこそ、俺の教育に心血を注いだのだ。

まだ母国語も話せないうちから、複数の外国語の勉強を始めさせ。

情操教育の為の絵本を惜しみなく買い与えては、俺に読み聞かせ。

少しずつ文字が読めるようになると、俺に自分で読ませた。

俺の一日のスケジュールは、母によって完璧に管理されていた。

決められたスケジュールを完璧にこなせなければ、母は驚くほど冷淡になった。

そして、母のお得意の言葉…。

「お前に価値はない」とか、「失望した」とか言うのだ。

母にそんなことを言われたくなくて、言わせたくなくて、俺は必死に努力した。

幼い頃から、そういう教育をされてきたから。

俺には分かっていた。

母の望む通りの自分にならなければ、俺は母に捨てられてしまう。

誰だって子供なら、親に見捨てられることは恐怖だ。

ましてや俺には、母以外頼れる大人はいなかった。

父親はいないし、兄弟もいない。

母こそが俺の全世界であり、絶対君主でもあった。

家の中に、娯楽の為の道具はなかった。

母は極端なほど綺麗好きで、潔癖で、うるさいものや賑やかなものが嫌いだった。

俺達親子が当時、住んでいたのはマンションだったのだが。

静寂を愛する母の方針で、そのマンションは特別防音性能が高く。

上の階の足音や、下の階の子供が騒ぐ声などは一切聞こえなかった。

それどころか、部屋の中にはテレビすらなかった。

母はテレビというものを毛嫌いしていて、「あんな下らないものを見ていたら堕落する」と言っていた。

全国のテレビ局に勤める人達を、敵に回す発言だが。

そんな母の影響で、俺自身、「テレビとは低俗なもの」と思い込んでいた。

今でこそ、そんなことはないと知っているが。

当時俺にとっては、母こそが絶対的な存在であり。

俺もまた、母の価値観に染まるよう強いられていた。

そんな訳で、幼い頃の俺はテレビを見たことがなく、それどころかラジオもステレオもなく。

静かな部屋の中で、日がな一日中、勉強をして、本を読んで、母の決めたスケジュールを黙々とこなしていた。

…それだけなら、ただの教育熱心な教育ママ、で済むかもしれない。

だけど、母の教育の恐ろしいところは、勉強を強いられることでも、本を読まされることでもなかった。

母は毎日、「心の教育」と称して、俺を壁際に立たせた。

そして、そんな俺に母は、訴えかけるように尋ねた。






「ねぇ、響也。あなたは、何の為にこの世に生まれてきたと思う?」

…って。