神に選ばれなかった者達 後編

だって、そうだろう?

あの時萌音ちゃんは、まだ6歳という幼さだった。

そんな小さな女の子が、二時間以上、一人で。

頼れる人が誰もいない状態で、見たこともない大人が迎えに来るのを待っていたのだ。

これが普通の子なら、不安で、心細くて、泣いてしまっていただろう。

うちで育てている別の子が同じ状況に置かれたら、間違いなく、不安のあまり大声で泣き出すに違いなかった。

それなのに萌音ちゃんは、けろりとしていた。

少しも不安そうには見えなかったし、泣いていた様子もなかった。

何事もなかったように、どうでも良さそうな顔をしている。

まるで子供らしくなくて、凄まじい違和感を感じた。

と同時に、この子は一体、どういう環境で育ってきたんだろう、と思った。

どんな環境で、どんな風に育てたら、こんな子に育つのか…。

「いつから待ってたの?」

「ん〜…?…ずっと前」

そっか。ずっと前か。

「誰と来たの?お父さん?お母さん?」

「ううん」

…え?

「一人で来たよ」

「一人で…?」

「うん。萌音はいつも一人だから」

…どういう意味だ?

俺はてっきり、萌音ちゃんは両親にこの駅まで送ってもらって、ここまで来たのだと思っていた。

しかし、そうではなかったのだ。

「まさか…一人で新幹線に乗ってきたの?」

「?うん」

何を当たり前のことを、と言わんばかり。

いや、それ全然当たり前じゃないから。

聞くところによると、彼女は朝、自分の父親に連れられて、最寄りの駅まで行って。

そこで切符を渡されて、その後は一人で新幹線に乗って、一人でこの駅までやって来たのだという。

大きなスーツケースを持って、一人で。

信じられなかった。

こんな小さな女の子が、一人で移動出来る距離を遥かに越えている。

そうと知っていれば、彼女の実家まで迎えに行ったのに。

よくも彼女の親は、一人きりで新幹線になど乗せたものだ。

だけど、この憤りを、彼女自身にぶつけても仕方なかった。

「そ…そうだったんだ。一人で…大変だったね」

俺は努めて冷静に、優しく聞こえるように振る舞った。

しかし。

「別に平気だよ」

萌音ちゃんはけろっとして、その姿がまた異様に見えた。

…平気…じゃないんだよ。これが普通の子だったら。

高校生や大学生だって、初めて一人で新幹線に乗ったら、少なからず不安になるだろうに…。

「…さぁ、萌音ちゃん。一緒に帰ろう」

俺は片手で萌音ちゃんのスーツケースを持ってやって、もう片方の手を、萌音ちゃんに差し出した。

萌音ちゃんは差し出された手を、不思議そうな顔をして見つめていた。

「何の為の手?」とでも思っていそうな。

案の定。

「…何で手、出すの?」

きょとんと、そう尋ねてきた。

それは、彼女が長いこと、誰にも手を繋いでもらった経験がないという、何よりの証拠だった。