神に選ばれなかった者達 後編

最初にこの子と会った時、萌音ちゃんは一人だった。

俺はあの日、一人で、車に乗って彼女と待ち合わせしている駅に迎えに行った。

あの日、俺は渋滞に巻き込まれ、待ち合わせの時間よりもずっと遅れてしまった。

出来れば遅れることを萌音ちゃんに連絡したかったのだが、残念ながら萌音ちゃんはあの頃、携帯電話を持っていなかったから、連絡する手段もなく。

ただただ、急いで待ち合わせ場所の駅に向かうしかなかった。

辿り着いた時には、待ち合わせの時間から二時間以上も遅れていた。

大遅刻だ。

既に、外は暗くなり始めていた。

「えぇと…萌音ちゃん…萌音ちゃん…」

あの時の俺は、今日から自分と一緒に暮らすことになる子の、顔も知らなかった。

事前に福祉団体から渡されていた身の上調書で、名前と年齢、それから性別だけは知っていたけれど。

その書類には、写真が貼られていなかったのだ。

駅に辿り着くなり、俺は、周囲をきょろきょろと見回した。

…萌音ちゃんは何処だろう?

まさか、あまりに遅いから、もう別の場所に移動してしまった、とか…?

焦燥感に駆られながら、駅構内を探していると。

「…!あの子…」

小さな女の子が、一人でスーツケースに座っているのを見つけた。

その子は丁度、身の上調書に書いてあった年齢の女の子のように見えた。

…まさか、あの子が萌音ちゃん?

てっきり、誰かに送ってもらって一緒に来ていると思っていたのに。

その子は、小さな身体と同じくらい大きなスーツケースに、ちょこんと座って。

不安なんて少しも感じさせない、ぽやんとした顔で待っていた。

…恐る恐る、その子に近づいて。

「…萌音ちゃん?」

と、声をかけてみた。

「もしかして…萌音ちゃん、かな?」

「…」

突然話しかけられたのに、その子は少しも驚いた様子も、怯えた様子もなく。

大きな目で、じっとこちらを見つめていた。

「萌音ちゃん?」

「うん」

こくり、と頷く女の子。

やっぱり…この子が、探していた萌音ちゃんなのだ。

無事に合流出来て、ホッとすると同時に。

どうして、この子は一人で待っているんだろう、と思った。

てっきり、親か誰かが、一緒に来て待っていると思ったのに…。

俺があまりに遅いからも、もう帰ってしまったのだろうか。

それは大変申し訳ないけれど、だからといって、こんな小さな女の子を、一人で待たせるなんて…。

「萌音ちゃん…。…一人?お父さんか、お母さんは?」

「ううん」

ふるふる、と首を横に振る萌音ちゃん。

「いないの?…一人で待ってたの?」

「うん」

…なんてことだ。

「そうなんだ…。ごめんね、遅くなって…。高速道路が、事故で通行止めになってて…」

「別に良いよ」

萌音ちゃんは、けろっとしていた。

その姿を見た時、俺は…萌音ちゃんには申し訳なくて、とても本人には言えないけど。

酷く…不気味だと思った。