神に選ばれなかった者達 後編

「いないの?…誰も?」

「うん。多分ね」

人もバケモノの姿形も見えないし、気配も一切感じない。

そして、このフロアには、病室も厨房も、手術室もない。

病室らしきものは何もなくて、あるのは…。

フロアの奥に、たった一つ、部屋があった。

ここにあるのはそれだけだった。

そして、この部屋は…。

「よーし、開けてみよーっと」

萌音ちゃんが、早速その唯一の部屋の取っ手に手をかけた。

恐れ知らずにも程がある。

こんな、まさしくラスボスの部屋、って感じの場所に。

「ちょっと待て、萌音。どうせここにも鍵が…」

「ふぇ?開いてるよ?」

「えっ?」

気がつくと。

我らの勇者萌音ちゃんが、ガチャッ、と扉を開けてしまっていた。

…驚くほどあっさりだな。

普通ラスボスの部屋って、何処よりも厳重に鍵がかかってるもんじゃねぇの?

この病院、何処もかしこも、あちこち厳重に施錠してる癖に。

何で、肝心のラスボス部屋だけ、こんなに不用心なの?

まぁ、この部屋がラスボス部屋とは限らないけど。

でも、いかにもそんな感じの雰囲気だったもんだから…。

それとも、そもそもこのフロアには、黒衣人間達も安々と近寄れないのだろうか。

なんと言うか…禁足地みたいな、「入ってきちゃいけないオーラ」を感じるんだよな。

見ちゃいけないもの…決して触っちゃいけないモノに、うっかり触れようとしているような…。

これが生物の本能ってヤツだろうか。

他の皆さんもそれを感じているのか、思わず息を呑んでいるようだったが。

萌音ちゃんは相変わらず、けろっとしてるし。

それに、ここまで来て「やっぱやめよう」なんて言い出す訳にはいかなかった。

むしろ、ここまで来たからこそ、最後まで見なきゃいけない。

この部屋の奥に、一体何があるのかを。

…仕方ない。

見てやろうじゃないか。

「開けて良い?開けるよ」

「ちょ…ちょっと待て、萌音。もし敵がいたら…」

「開け、ごまー」

「こらっ…!」

李優君が止めようとするのも構わず。

萌音ちゃんは、豪快に、何の躊躇いもなく、禁断の扉を開いた。

もし、開けると同時にバケモノが襲い掛かってきたら…と、警戒したけれど。

「…」

「…誰もいないね」

相変わらず、その部屋もまた、無人だった。

…いや、それは違うな。その言い方は語弊がある。

正しく言うと…無人ではなかった。この部屋には、ふぁに達以外の生き物がいた。

ただしそれは、決してふぁに達の敵ではなかった。