神に選ばれなかった者達 後編

…もう、何もかも遅いんだよ。

あんたさんは、ほたるがふぁにになっていることに、何年も気づいてなかった。

気づかないまま、ここまで一緒に暮らしてきたのだ。同じ屋根の下で。

あんたさんは別に、ほたるじゃなくて良かったんだろ。

今日まで気づかなかったんだから。

これまでずっと、クローゼットの奥にしまい込んでいた古いコートを。

引っ張り出してみたら、虫食いがあったようなものだ。

そりゃショックだし、一瞬は落ち込むかもしれないけど。

ずーっと着てなかったんだから、多分これからも着る機会はないだろう。

そんなもんだよ。

「ほたるのことなんて、どうでも良かったんだろ?どうでも良かったから、今に至るまで気づかなかったんだろ?」

ほたるが、いつの間にかふぁにに代わっていたことに。

「…もう遅いよ」

「…。…どう…どうしたら良いの?どうすれば、ほたるが…」

「だから、もう無理なんだってば」

残念だけどね。

あんたさんに呼ばれても、ほたるはほんの少しも、目覚める気配さえ見せていない。

駄目なんだよ。あんたさんに呼ばれたって…ほたるは目を覚まそうとはしない。

「…希望を持つのは悪いことじゃない。ほたるが目を覚ましてくれたら…って、それはふぁにも思ってる」

いつか、もしかしたら…って思ってるよ。

限りなく細い糸だけど、それを手繰り寄せればきっと、ほたるが目を覚ます時が来る…。

そう信じて生きてる。…ふぁにだって。

だけどその願いは、もう何年も裏切られ続けている。

多分、ほたるは「自分が目覚めること」を望んではいない。

ふぁにのような…「自分に代わる存在を生み出すこと」だけに固執している。

耐えられない痛みを…自分の代わりに耐えてくれる「別の誰か」を。

「…別に、ふぁにと仲良くする必要はないよ」

優しくしてくれなくて良い。放っといてくれて構わない。…いつものように。

ふぁには、あんたさんの息子じゃあない。

他人なんだから。

…それに。

「いつかきっと、ふぁにが耐えられなくなったら…その時は、また別の誰かが出てくるだろうよ」

ほたるには、ふぁにが必要だった。

だから生まれた。

もしいつか、ふぁにに別の人格が必要になったら。

きっとまたほたるは、新しい誰かを生み出してくれるだろう。

ふぁにという存在は、それまでの繋ぎでしかない。

…繋ぎで構わないよ。

この世に生まれてくることが出来たんだから。