神に選ばれなかった者達 後編

「え、えぇと…申し訳ないんですが、自分は外科の担当なんで…」

困り果てた医者は、しどろもどろ、そう答えていた。

ま、そりゃそうだ。

この人は外科の先生なんだから、多重人格のご相談は専門外だ。

自分に聞かれても、って感じだろうな。

ほたるママが切実に相談しているのは、その口調からして理解出来るが。

専門外の分野について聞かれても、何とも言えないだろう。お医者さんとしては。

「良かったら、その…精神科の病院を紹介しましょうか?」

おい、マジかよ。

ちょっと、それはやめてくれよ。

と、思わず言いそうになった。

別にふぁにとしては、自分に恥じるようなことや、引け目を感じるようなことは何もないが。

かと言って、ふぁにのことを「ほたるの偽者」と認識されるのは困る。

下手に精神科などに行って、変な薬とか飲まされたり、インチキなカウンセリングなんて受けさせられて。

それで、ほたるが目を覚ますなら良いけど。

代わりにふぁにという人格を消します、なんて言われたら困る。

ふぁにだって、消えたくはないからな。

出来れば、ほたると仲良く共存する形で存在していたい。

勝手なことはして欲しくない。

…これまで、ほたるのことも、ふぁにのことも、目を逸らしていた癖に。

今更…。

…しかし。

「い、いえ…そんな…精神科、なんて…」

今度は、ほたるママがしどろもどろになる番だった。

おい、精神科「なんて」って言い方はなんだ。

精神科だって立派な病院じゃないか。

ふぁには行きたくないけどな。

「そうじゃなくて…多重人格なんて、本当に実在するのかどうか知りたくて…」

都市伝説だとでも思ってたのか?

「それは…はい。実在していますが…」

困りながらも、断言してくれるお医者さん。

ふぁにの存在を肯定してくれているみたいで、ちょっと嬉しかった。

「本当に…?じゃあ、あの子もそうなんですか…?」

「いえ、それは…。ちょっと、自分は専門外なので…」

病気が実在することは知っていても、診断は出来ないらしいお医者さん。

この人は外科医だから、無理もない。

「気になるのでしたら…やっぱり、専門の病院を紹介しますので、そこで詳しく調べてもらっては…」

「い、いえ…。それは…その…。…考えておきます」

おい。考えるなよ。

何、ちょっとほだされてんだ。

ほたるママは即答を避けた。本当にふぁにのことを知りたいのなら、すぐにでも専門の病院を紹介してもらうだろうに。

ほたるママとしても、考えを整理する時間が欲しいのだろう。

…あるいは、無意味な抵抗なのかもしれない。

もしも専門の病院で、「はい、お宅の息子さんは多重人格者です」と断言されたら。

ほたるママとしても、ふぁにの存在を認めざるを得ない。

自分の息子が精神病を患っているという現実、そして本来の息子…ほたるがもう目覚めないという現実を。

この身体に宿っているのが、最早ほたるではないという現実を…認めなければならなくなる。

…それが嫌なんだろう。多分。

…ほんと、今更だよなぁ。