神に選ばれなかった者達 後編

その後は、ちょっと面倒臭かった。

グロテスクに曲がった指を見て、ほたるママはさすがにヤバいと思ったのか。

ほたるママに連れられて、病院に連れて行かれた。外科の病院。

折角自分で手当てした意味が。

医者にはびっくりされた。「どうしたんですか?この怪我」って。

挟まれたんだよ。ドアに。

ふぁにが素直にそう答えると、医者はぎょっとして、診察を受けるふぁにの後ろに立っていたほたるママを見つめていた。

ほたるママは、バツが悪そうに視線を彷徨わせていた。

医者も、「この家なんかやべーな」と思ったんじゃないだろうか。

しかも。

ふぁにの診察の後。

「ちょっと、あなたは先に出て」

と、ほたるママが言い出した。

はぁ。何ですかね。

ま、良いか。

ふぁには席を立って、診察室から出ていった。

そして、ほたるママだけが診察室に残った。

…。

…出て行けとは言われたが、立ち聞きするなとは言われてないからな。

ふぁには待合室に戻るフリをして、診察室の扉の前で立ち聞きすることにした。

「あの、先生…ちょっと、ご相談なんですが…」

ほたるママが、医者にそう申し出た。

「はい、何ですか?」

「実は…。その、息子がこんなことを言い出して…」

と、ふぁにとほたるの多重人格について、医者に相談した。

「自分はほたるじゃないって…別の名前を名乗って、もとのほたるは死んだって…」

「は、はぁ…」

ほたるママの突然の告白に、医者、困惑。

そりゃそうだろう。

ごめんな、ふぁにまで聞いちゃって。

壁越しにこっそり立ち聞きをするのは、ふぁにのジョブみたいなものなんで。

「以前のほたるとは、言動が全然違っていて…本当に別人みたいに…」

そりゃ別人だからな。

なんだよ。信じてなかったのか?

ほたるが演技してるとでも思ってたのか。心外だな。

ほたるは最初からほたるだし、ふぁには最初からふぁにだよ。

ずっと向き合ってこなかったのに、今更どうした。

自分の知らないうちに、息子が別人になっていた。

そのことに気づいた途端、ようやく危機感を覚え始めたのだろうか。

もう遅いっての。

もう少し早ければ、ほたるがこんなに深く眠りにつくことはなかったかもしれないのに…。

「先生。これって一体どういうことなんでしょう…?」

「え、えぇと…」

先生、大困惑。

明らかに迷惑がっている様子だったが、ほたるママも必死なのか。

更に、核心を突いた質問をした。

「あの…これって、いわゆる…多重人格ってことなんでしょうか?」

「そ…それは…」

「実在するんですか、本当に?演技とか…病気じゃなくて?」

…失礼だな。

フィクションの世界にしか存在しないと思ってたのか?

自分の理解の及ばないものを、勝手にフィクション扱いするのはやめてもらいたいもんだな。

あんたさんが知らないだけで、確かに存在しているんだから。