神に選ばれなかった者達 後編

「ちょ、マジでもうやめとけって」

「ッァナルワサ!!」

「いてっ」

その患者はベシッ、とふぁにの手を振り払った。

そして、また必死の形相でぐびぐび飲み続けている。

みるみるうちに、患者の腹が膨らんでいく。

まるで風船だ。

もうこれ以上入らないってくらい、パンパンに空気を入れた風船。

それなのに、まだ空気を入れ続けている。

限界を超えて風船に空気を入れ続けたら、どうなると思う?

当然、風船は割れる。

…それと同じだ。

ふぁにが手を出せずに呆然としている間に、ついに、容器に入っていた中身を全部飲み干した。

…すげぇ。本当に飲み切った。

あのでっかい容器を…。こんな一瞬で。

あんたさん、一気飲み選手権出られるんじゃねぇの?

それだけ飲み干して、ようやく人心地ついたらしい。

一瞬だけ、満足そうな顔をしたが。

しかし、その顔は瞬時に、苦痛に歪み始めた。

それは当然だ。

患者の腹は、パンパンを通り越していた。

あまりにも膨らみ過ぎて、腹の肉にビリビリと亀裂が入っていた。

「限界」は、突然やって来た。

「ィィィィァァァギ!!」

喉が千切れるほどの、凄まじい叫びをあげるなり。

膨らみ過ぎた腹が、パァンッ!!と破裂した。

中に入っていた大量の血液と、患者自身の臓物が、まとめて部屋中に飛び散った。

特大級の水風船をぶち撒けたようなものだ。

ふぁには、まともに血飛沫の雨を浴びることになった。

…今世紀一番のグロ動画を観せられた気分だよ。

どうなったのか具体的に知りたかったら、風船にありったけトマトジュースを注いで、部屋の中で爆発させてみな。

そんな感じになるから。

ただし、風呂場でやらないと、後で酷いことになるぞ。

ふぁには責任取らないんで。よろしく。

腹が裂けた女性患者は、自分の血と、今しがた飲んだ他人の血が混じり合って、真っ赤になって事切れていた。

「中身」が破裂してしまったせいで、腹の中身は空っぽだ。

同室の他の患者達は、死んだ患者のことなんて眼中に無く。

それよりも、自分の口元に飛び散った血飛沫を、舌を伸ばしてペロペロ舐めることに夢中だった。

…何が嬉しくて、こんな光景を見せられなきゃいけないのか。

とりあえず、自分が感じたのは。

「この部屋を掃除するのは、ふぁにじゃないんだな」という安心感だった。

この部屋にいる患者達が、極端に水分摂取を制限されている理由は、これなんだな。

こいつら、水分を摂らせ過ぎると腹が割れて死んじゃうんだ。

成程、あながち患者をいじめて楽しんでいた訳ではないらしい。

とはいえ、腹いっぱい喉を潤して死んだのだから、あの患者としては大満足の死だったことだろう。