神に選ばれなかった者達 後編

蓋を外した血液の容器を逆さまにしたことで、ドボドボと血液が流れ出したが。

その血液を、患者はごくごくと、喉をごっきゅごっきゅ鳴らしながら、貪るように飲んでいた。

すげぇ。

風呂上がりにビールを飲む親父だって、こんなに威勢良くはないだろう。

まぁ、飲んでるのビールでも水でもなくて、人間の血なんだけど。

念願の水分を前に、そんなことはどうでも良い、ってか?

あまりに勢いが良くて、噎せやしないかと心配なんだが。

口元から溢れ落ちた血液が、シーツにポツポツと赤いシミを作った。

すると。

「ォォォォウ!!ッゥゥゥズ!!ッィィィミ!!」

「ォォォォモィィィニィィシァァタァァワ!ォォォモィィィニィィシァァタワ!!」

「ェェェケダエマオ!ェェェケダエマオ!!」

喚く喚く。他の患者達が。

すんごい唸り声っつーか叫び声で、最早何と言ってるのか定かじゃないが。

多分だけど声色的に、「自分にも寄越せ」と言ってるんじゃないだろうか。

患者達は、自分の皮膚が擦れて血が滲むことも構わず、鎖をいっぱいに引っ張って。

目を開いてこちらを睨みつけ、凄まじい形相で叫び散らしていた。

念願の水を、一人だけもらっている。

患者達にとって、これは由々しき事態だろう。

まぁ、これ水じゃないけども。

ちょっと、そんなデカい声で叫ぶなよ。

何事かと思って、黒衣人間共が駆けつけてきたらどう言い訳すりゃ良いんだ。

問答無用で捕まっちゃうじゃないか。

「ちょっと、お姉さん。もう充分飲んだだろ。別の人にも…」

「ァァァナルワサ!!ッケイ!!」

「うわっ」

他の人に渡そうと、ペットボトルを掴もうとすると。

目をひん剥いて、凄い勢いで拒否された。

凄まじい剣幕。

折角手に入れた水(血)を、決して、断じて誰にも渡さないと言わんばかり。

うわぁ…あんたさん、独占欲強いなぁ…。

皆喉渇いてんだから、他の人にも分けてやれよ。

その患者は、ぐびぐびと血液を飲み続けていた。

早くも、大きな容器の中身が三分の一以下に減っている。

おい、いくらなんでもちょっと飲み過ぎなのでは?

いくら喉が渇いてるからって、そんな一気に大量に飲んだら、逆に身体に良くないのでは?

…その証拠に。

「…!あんたさん、その腹…」

ただでさえ、ぼっこりと膨らんでいた腹が。

大量の水分を摂取したことにより、今にもはち切れそうなほどパンパンになっていた。

ちょ、これってヤバいんじゃねぇの?

今更、ふぁには自分が何やらとんでもない間違いを犯したことに気づいた。