神に選ばれなかった者達 後編

食べ物をもらえないのも辛いけどさ。

水分を与えてもらえないのも、物凄く辛いからな。

ふぁには、そのことをよく知っている。

この部屋にいる患者、全員そうなんだろう。

…ぶっちゃけ、ここにいるバケモノ共がどんな死に方をしようと、ふぁににとっては関係のないことだ。

この悪夢を乗り越える為には、いずれこいつらだって殺さなきゃいけないんだから、同情する必要はないはず。

だけど、ふぁにの足は病室を出て、再び厨房に向かっていた。

水、あるいは何らかの水分を手に入れる為だ。

別に同情じゃねぇよ。

何で、ここまで徹底的に水分管理をしているのか。その理由を知りたかっただけだ。

駄目だって言われたことこそ、やってみたくなる。人間ってそういう生き物だろ?

ふぁには、こそこそと忍び足で厨房に向かった。

食事作りが終わった後の厨房には、人っ子一人、ならぬ。

バケモノっ子一人いなかった。

何だよ、バケモノっ子って。そんなに可愛い生き物じゃねーっての。

「えぇと、水…水…」

厨房なら、水道の蛇口があって、その蛇口を捻れば水が出そうなものだったが。

何故かこの厨房には、水道がなかった。

マジかよ。水の出ない台所って、不便の極みじゃね?

…かくなる上は。

「…ここ、しかないよなぁ…」

ふぁにが足を止めたのは、冷蔵庫だ。

そう。人間ミックスジュースの「材料」を保管している、大きな業務用冷蔵庫。

その冷蔵庫を開けると、ふぁにが探しているものがあった。

美味しいミネラルウォーター…じゃねぇよ。

血だ。人間の血液。

大きなペットボトルみたいな入れ物に、血が並々と保管してあった。

…おぇ。

人間の血も、一応水分であることに変わりはないからな。

気持ち悪いけど、これを水の代わりにしよう。

あの…あれだよ多分。これ、トマトジュースだよ。

そう思おう。

そのトマトジュース(仮)を、ふぁには容器ごと掴んだ。

あばよ。一本もらってくぜ。

そしてそれを持って、病室に戻った。

ふぁにの目の前には、脱水症で意識が朦朧としている患者が。

…よし。試しにこの人にあげてみよう。

「ほらっ…これ、血。じゃなくて…そう、トマトジュースだ」

ふぁには容器の蓋を開けて、口元に人間の血、いやトマトジュースをあてがった。

すると。

虚ろだった患者の瞳に、カッ!と生気が宿った。

お、おぉ?

「ォォォォォウ!!ゥゥゥズィィィミ!!」

雄叫びみたいな声をあげ始めた。

怖っ。ちょ、びっくりさせんなよ。

思わず、ジュースの容器を落っことしてしまうところだった。