神に選ばれなかった者達 後編

そのまま、しばらくすると。

やがて何人かの患者は、驚くほどに静かになった。

別に諦めた訳でも、死んでしまった訳でもない。

「…」

恐る恐る近づいてみると、瞳が静かにこちらを向いた。

しかし、その目は非常に虚ろで、ほとんど焦点が合ってないように見えた。

…なぁ、これヤバくね?

その隣に寝ている患者なんて、ふぁにが近寄ったことすら気づいている様子はなく。

苦しそうに目を閉じて、息を荒くさせていた。

…そりゃ、そんなに腹が膨れ上がっていたら、苦しいのは当然だろうが。

それどころか、唇も肌も、荒れてガサガサ。

舌をだらりと口から垂らして、その舌も砂漠のようにひび割れている。

当然のように、身体はぐったり。目は落ち窪んで、意識も定かではない。

…。

…なぁ、これって。

ふぁには、そーっとその患者に近づいた。

そして、患者が確かに拘束されているのを確かめてから、その患者の手の甲の皮膚を摘んだ。

何やってんだ、って思うだろう?

でも、どうしても気になることがあって。

軽く手の甲を抓った後、皮膚の表面を確認してみると。

シワの寄った皮膚は、なかなかもとに戻らなかった。

…やっぱり。

これって、脱水症なんじゃないの?

多分だけど、他の患者もそう。

ふぁにも以前、夏に物置に閉じ込められた時に、何度か脱水症で死にかけたことがある。

その経験から分かる。

身体から水分が失われて、自分の身体が砂漠のように感じられる、あの感覚。

正直、二度と体験したくない。

同じ経験をしたからこそ分かる。

この患者達、餌を求めていると言うより…もしかして、水分を求めているのでは?

そういやこの病院、全然水がないんだよ。

普通大きな病院だったら、水飲み場とか、自販機コーナーとかあるだろ?

でも、そういうの全然ないし。

病室の中には、洗面所もない。水の入った花瓶もない。

水を入れる為のコップ一つないのだ。

水があるのは、恐らく、食事を作る厨房だけ。

身体中、鎖でがんじがらめにしてるのも…勝手に水分を摂取させない為、なのか?

そう考えると辻褄が合う。

おいおい…。水分は大事だぞ。水くらいあげろよ。

何らかの理由で水を絶ってるんだろうか?これも治療の一環なのか?

だけど、喉が渇いてるっていうのは、なかなか辛い拷問だからな。

とはいえ、さっき全員に餌は与えていたし。

まったく与えない訳ではなく、必要最低限しか与えない、という方針なんだろう。

地獄のようだな。

限界まで渇いて、死にかけるとほんの僅かに餌(水分)を与えられ、そしてまた渇いて…餌をもらって…また渇いて…の繰り返し。

いっそ人思いに殺してくれ、と言いたい気分だろう。

バケモノ相手だが、ふぁには深く同情した。