神に選ばれなかった者達 後編

私とお兄ちゃんは、仲間の皆を保育室に案内した。

そこでは相変わらず、ベビーサークルの中で、死に物狂いの生存競争が行われていた。

「…これは…。…予想以上だな」

あまりの凄惨な光景に、李優さんは顔をしかめていた。

みらくさんも、耐え難いと言わんばかりに壁の方を見つめていた。

平然としているのは、萌音さんと…それから響也さんも、表情一つ変えていなかった。

どころか、萌音さんは興味深そうな顔をして李優さんに言った。

「見て、李優。あの子達、共食いしてる」

「いちいち指差さなくて良いから…」

更に、響也さんまで。

「共食いは蠱毒の壷の基本だからな。共食いさせて互いの霊力や呪力を体内に宿すことで、」

「響也くんっ…!いちいち説明しなくて良いの」

…萌音さんと響也さんって、ちょっと性格…似てるかも。

貶してるんじゃないよ。この悪夢の世界では、こういう性格の方が有利に決まってるから。

「それじゃ…手早く終わらせよう」

「う、うん…」

覚悟を決めたものの、私はまだなおも、恐怖心を覚えていた。

…このベビーサークルの中にいるのは、かつての私や、お兄ちゃんだ。

過酷な生存競争を、懸命に生き抜いた。

他人を踏みつけ、蹴落とし…腐肉を食らってでも生き延びてきた。

それなのに、なんという皮肉だろう。

過酷な生存競争を必死に生き延びようとする、あの子供達を…同じ体験をした私が、手にかけるなんて。

…ごめんね、なんて口にする資格がないのは分かっている。

謝罪の言葉なんて必要ない。そんなもの、謝った側の自己満足でしかない。

だけど私は、それでも…。

…すると、その時だった。

保育室に足を踏み入れると、突然。

ビーッ!ビーッ!と甲高い警報音が鳴り始めた。

「…!?」

「のぞみっ…」

危険を感じたお兄ちゃんが、真っ先に自分ではなく、私を抱き寄せて守った。

「な、何なの?」

「…どうやら、やられっぱなしになってはくれないらしいな」

こんな時でも、響也さんは冷静で。

そして、萌音さんも同じように冷戦で。

「うーん。武器、何かないかな…?…よし、この消火器を使おう」

萌音さんは、廊下に設置されていた消火器を、武器の代わりに使おうとしたが。

「ちょ、馬鹿。お前の怪力で消火器なんかで殴りつけたら、俺達まで粉まみれになるだろ」

「え、駄目なの?じゃあ仕方ない。自分の手と足で戦おう」

まさかの徒手空拳。

ある意味、究極の武器である。

すると。

警報音を聞きつけたらしく、ナースステーションから、拳銃を手にした黒衣人間達が数人、走って駆けつけてきた。

…!不味い。

一気に、こちらが不利の状況になった。