神に選ばれなかった者達 後編

聞き間違いかと思った。

犬が喋るなんて、有り得ない。

だけど、それは決して聞き間違いではなかった。

「おぉぉ…にぃ…ちゃぁぁん…」

「…」

頭から血と脳みそをどろどろ垂れ流しながら、「空音のぞみ」はお兄ちゃんを呼んでいた。

いくらお兄ちゃんだって、これで気づいたはずだ。

その人面犬が、お兄ちゃんの本当の妹だってこと。

…それなのに。

「…うるさいよ」

お兄ちゃんは容赦なく、何の躊躇いもなく。

鉄パイプを、何度となく「空音のぞみ」の頭を打ち砕いた。

「お前はのぞみじゃない。僕ののぞみは、ここにいるこの子だけだ」

「…!?」

お兄ちゃん、何言ってるの?

「この子以外が、僕をお兄ちゃんなんて呼ぶのは許さない」

そう言って。

お兄ちゃんは、再度高く鉄パイプを振り上げた。

いけない。

「お、お兄ちゃん、待って…!」

狂気に走るお兄ちゃんを、慌てて止めようとしたけれど。

お兄ちゃんは私の制止を聞かず、鉄パイプを振り下ろした。

ベチャッ、と音がして、「空音のぞみ」の顔が、完全に砕けた。

そして、ドサリとその場に倒れた。

「あ…。あぁ…」

…なんてことを。

お兄ちゃん…あんなに大切にしていた本物の「空音のぞみ」を…。

「…ふぅ。終わった」

お兄ちゃんは、朗らかな笑顔でこちらを向いた。

…何で。

何で、そんなっ…。

「もう大丈夫だよ、のぞみ。バケモノは退治したから…」

「お兄ちゃんっ…!バケモノじゃない…これはバケモノなんかじゃないよっ…」

私は、お兄ちゃんに縋り付くようにして訴えた。

「分かってるでしょう?気づいてるでしょう…!?お兄ちゃんの妹だよ!本当の妹なんだよ!」

「…」

お兄ちゃんは無言で、動かなくなった人面犬を見下ろした。

信じられないほど冷たい眼差しだった。

それは決して、自分の家族に向ける眼差しではなかった。

「それなのに…どうして、殺しちゃったの…?」

私がずっとお兄ちゃんのこと騙してたんだって、もう気づいてるんでしょう?

それならどうして…。どうして、私のことを…。

「…僕ののぞみは、君だけだよ」

…え?

お兄ちゃんは、優しい微笑みを浮かべて私を見つめていた。