神に選ばれなかった者達 後編

「…」

お兄ちゃんは、無言で鉄パイプを強く握り締めた。

私は怯え、恐怖した。

裁きの時だ。

居心地の良さに甘え続けた、その報いを受ける時がやって来たのだ。

よくも騙してくれたな、と。

よくも妹ヅラして、これまで自分にタカってくれたな、と。

でも、これは当然の報いだった。

これまで私はずっと、お兄ちゃんに甘え続けてきたのだから。

あの時、あのごみ捨て場で終わりだったはずの命なのに。

その生命を拾って、ここまで生き永らえさせてもらったのだから。もう充分だった。

他でもないお兄ちゃんの手で裁かれるのら、本望というものだろう…。

強く鉄パイプを握ったお兄ちゃんは、つかつかとこちらに歩み寄り。

そして、その鉄パイプを高く振り上げた。

「…っ…!」

その鉄パイプが、私の身体に振り下ろされる瞬間。

私は反射的に、ぎゅっと固く目を瞑った。

…しかし。

グジャッ、という音がして、鉄パイプが叩き割ったのは。

私ではなく。

「ギァァァァァ!!」

「…!?」

私は、思わず自分の目を疑った。

あろうことか、断罪の鉄パイプが本物の「空音のぞみ」に…。

人面犬の頭に、めり込むようにして振り下ろされていた。

血と脳みその欠片が宙を舞い、お兄ちゃんの身体に降り掛かったが。

お兄ちゃんは無表情なまま、少しも動揺していなかった。

な…。

…なん、で?

「お、おにい、ちゃん…?」

「…」

お兄ちゃんは無言で、再び鉄パイプを振り上げ。

またしても、「空音のぞみ」を殴り続けた。

何で。何をやってるの、お兄ちゃん。

「お兄ちゃん…。…お兄ちゃん!」

「…」

「だ、駄目だよ。その子は…その子は本物の…」

「…本物の、何?」

…えっ?

「本物の何だって言うの?」

「そ…それは…」

言いたくなかった。

この期に及んで、私はまだ、言えなかった。

「私はあなたの妹じゃない」なんて。

「これまでずっと、あなたを騙していました」なんて…。

自分が卑怯なのは分かっている。

だけど、私はそれでも…どうしても…。

…すると。

「お、おぉぉ…にぃ…ちゃ…」

…!?

鉄パイプで頭を潰された人面犬が、必死に何かを訴えていた。