神に選ばれなかった者達 後編

お兄ちゃんと生きることは、私にとって幸せだった。

最初は、自分を養育してくれる庇護者であれば、誰でも良かった。

だけどお兄ちゃんは、私のことを大切にしてくれた。

私の我儘を聞いてくれて、私を第一に優先して。

宝物でも扱うかのように、私を愛し、大事にしてくれた。

私はこれからもずっと、お兄ちゃんと一緒に生きていきたい。

例え血が繋がっていなくても、本物の兄妹になりたい…。

…だからこそ、不安で堪らなかった。

だって、もしお兄ちゃんが本当のことを…つまり、私が本物の妹じゃないってことを…思い出してしまったら。

そのことを思い出したらお兄ちゃんは…私を捨ててしまうかもしれなかった。

「君は妹の代わりにはなれない」と、私を追い出すかも知れない。

それが怖かった。

いつ、お兄ちゃんが本当のことを思い出すか分からない。

永遠に、そんな日が来ないことを祈り続けていた…。

…でも、駄目だった。

この悪夢の中でお兄ちゃんは、自分の本当の「のぞみ」と出会った。

お兄ちゃんは、全てを思い出してしまった…。

「あ、あぁぁ…」

…恐れていたことが、ついに起きてしまった。

これでもうおしまいだ、と思った。

お兄ちゃんは思い出してしまった。本当の妹のことを。

隣で妹ヅラしている私が、偽者だって気づいてしまった。

お兄ちゃんの庇護の下に生きるのは、あまりにも居心地が良かった。

今の立場を失いたくなかった。都合の良い「妹」でいたかった。

それが本当は自分のものじゃないってこと、私は知っていたのに。

居心地の良さにあぐらをかき続け、甘え続けていた罰を受ける時だった。

…なんて滑稽なんだろう。

お兄ちゃんを悪夢に引きずり込んだのは私なのに、そのせいでお兄ちゃんを失うことになるなんて…。

…こんなことなら、お兄ちゃんに悪夢のことを打ち明けなければ良かった。

この期に及んで、そんな風に考えてしまう自分の醜さに吐き気がした。

「お…お兄ちゃん…」

「…」

お兄ちゃんは、じっと本物の妹を見つめていた。

人面犬に姿を変えた本物の「空音のぞみ」もまた、お兄ちゃんをじっと見つめていた。

兄妹の邂逅だった。

「私が本物なのよ」って、訴えているように見えた。

「そこにいるのは偽者なのよ」って。

その通りだった。否定は出来なかった。

嘘は暴かれた。時は決した。

そして過ちは正さなければならない。

今こそ、本当の兄妹が相まみえ。

邪悪で卑怯な偽者は、断罪されるさだめ…。

…大人しく裁きを待つ以外、私に何が出来ただろう。