神に選ばれなかった者達 後編

ーーーーー…「お兄ちゃん」と初めて出会ったあの日のことを、私は今でも鮮明に覚えている。

お兄ちゃんは忘れてしまっていたけれど、私は覚えていた。

だから…敢えて、思い出させないようにしていた…。

私はあの日、お兄ちゃんと出会ったお陰で生き延びることが出来た。

私には、実の家族の記憶はほとんどない。

幼い頃の記憶は、蓋をしてしまったように思い出せない。

惟一、朧気ながらにも覚えているのは…あれは多分、私の母親だったのだろう。

その母親がある日、私のことを外に連れ出して。

貧民街のごみ捨て場に、私を置き去りにした。

そしてそれ以降、私は本物の家族に会ったことはない。

私は捨てられてしまったのだろう。ごみ捨て場に…ゴミと同じように。

私の母親にとって、私はゴミでしかなかった。

もし私に「生き延びて欲しい」と思っているなら、敢えてごみ捨て場になんか置き去りにはしなかっただろうから。

誰からも必要とされず、自分で生き延びる術を得ることも出来ない年齢で。

頼りにすべき大人から見放されて、ゴミのように捨てられて、ゴミのように朽ちていく運命…。

貧民街ではそんなこと、日常茶飯事だった。

毎日のように、貧民街の何処かで起きている出来事だった。

その運命に私が選ばれたとしても、不思議なことは何もない…。

…だけど、私は死ななかった。

ごみ捨て場で、「お兄ちゃん」と出会ったから。

お兄ちゃんは、本物の妹と死に別れた直後だった。

そのお兄ちゃんが、「自分ののぞみになってくれ」と言った。

私は生き延びたいが為に、それを引き受けた。

その日から私は、空音いそらの妹…「空音のぞみ」になった。

私は自分の本当の名前を覚えていない。

ハナから名前なんてつけてもらっていなかったのか、単に幼な過ぎて覚えていないだけなのかは分からない。

でも、名前のなかった私にとって、「空音のぞみ」が本名となった。

偽物なのに、本名…おかしな話だ。

何だって良かった。のぞみでも、名無しでも。

生き延びることが出来るなら、それで。

…だけど。

お兄ちゃんに拾われて、お兄ちゃんに育てられて、お兄ちゃんと一緒に暮らすようになってから。

私は毎日のように、不安と恐怖と共に生きることになった。