神に選ばれなかった者達 後編

声のした方向に、僕はよろよろと歩き出した。

ごみ捨て場に、小さな女の子が蹲って泣いていた。

その子は、丁度死んだのぞみと同じくらいの歳に見えた。

「…君、名前は?」

僕は、掠れた声でそう尋ねた。

その子は泣きじゃくりながら、顔を上げた。

薄汚れた顔に、涙の痕がくっきりと残っていた。

長い間手入れされていない髪の毛は、もつれ合って鳥の巣のようになっている。

それでも、その子はこちらを見つめ。

そして、僕の問いかけに首を振った。

名前…ないのか。

貧民街では珍しいことじゃない。

妹ののぞみだって、僕が名前をつけたから「のぞみ」という名前になったけど。

僕が名前をつけなかったら、死ぬまで…いや、死んでも名無しのままだった。

…そっか。

「…親は?…兄弟は?」

「…」

その子は、またふるふると首を横に振った。

…名前もなし、親も兄弟もなし。

ということは…今日、帰る家もないのだろう。

…僕と同じだ。

このまま放っておけば、誰にも気づかれずに一人で死にゆくだけ…。

僕にはその子が、妹ののぞみのように見えた。

顔は全然違うけれど。

僕には、生きる為の希望が必要だった。

血が繋がっているかどうかなんて、問題ではない。

「…それじゃあ…」

僕はその子に歩み寄り、手を差し伸べた。

その女の子は、涙に濡れた目を驚いたように開いた。

「…君が、僕の新しい『のぞみ』になってくれないかな」

「…のぞみ…?」

そう。のぞみ。…望み。

僕の生きる希望。

僕は望みがなければ生きられない。

だから明日からも僕が生きていられるように、君がその望みになってくれないか。

…正直に告白しよう。

この時僕は、誰でも良かったのかもしれない。

自分にとって生きる希望になってくれるのなら…誰でも…。

…良いじゃないか。

たったそれだけの…こじつけの理由でも…。

それで…僕の、僕達の…生きる理由になるのなら…。

「…うん」

その女の子は、汚れた手で僕の手を取った。

こうして、僕は新たな望みを得た。

この子が、今日から僕の妹になる。

本物の、死んでしまったのぞみの代わり…。新しい「のぞみ」。

のぞみもきっと、誰でも良かったんだろう。

放っておいたら、このまま死んでしまうところだったんだから。

自分の庇護者を得られるなら…僕じゃなくても…誰でも良かった。

だから、これはお互い様だった。

生きる為に、お互いにお互いが必要だった。

誰に責められることがあろうか。

お陰で僕らは、今日まで生きてこられたのだから。