神に選ばれなかった者達 後編

本物ののぞみって何だ、と思っただろう?

本物ののぞみというのは、その名の通り、本物ののぞみのことだ。

じゃあ偽者ののぞみがいるのか?

その通り。偽者ののぞみがいるのだ。

もっと分かりやすく言うと、今、僕と一緒に現実で一緒に暮らしているのぞみ。

そののぞみが、偽者なのだ。

僕自身…その悪夢の中で、人面犬の顔をした本物の「のぞみ」を見るまで、無意識に忘れていた。

僕の、本当の妹。

僕が一番大切な…僕の希望…僕ののぞみは、死んだのだ。

もう生きてはいない。

あの子は、結局…僕が母親を撲殺した数日後に、僕の腕の中で息絶えた。

折角人買いから逃げ伸びることが出来たのに、あの子は病気に勝てなかった。

ひときわ寒かった夜の明け方に、冷たくなっていた。

けれど、僕はのぞみが死んだことに気づいていなかった。

何処にも行かず、何もせず、ひたすらずっとのぞみを腕の中に抱いていた。

のぞみはもう何も言わず、ずっと目を閉じていた。

僕の腕の中で、のぞみの身体は徐々に体温を失っていった。

冷たくなったのぞみの身体を、僕はぼんやりと抱いていた。

多分誰に止められたとしても、決して離さなかったはずだ。

体温を失い、冷たくなったのぞみは、時間が経つにつれて腐敗していった。

それでも、僕はのぞみを離さなかった。

のぞみの身体が朽ち果て、原型を留めず、耐え難いほどの異臭を放っていた。

それでも…それでも僕は、のぞみを抱いたまま離さなかった。

だって、それはのぞみだから。

死んだとしても、原型を留めないほどに腐っても…のぞみはのぞみだ。

僕の一番大切な…僕の希望なのだ。

この子から手を離してしまったら、僕は希望を失ってしまう…。

誰にも希望を奪わせはしない。

…しかし。

僕がどんなに、必死にのぞみの亡骸を抱き続けていても。

それは、結局亡骸でしかなかった。

朽ち果てたのぞみの身体には虫が湧き、異臭を放つドロドロの体液が身体中から漏れていた。

最早、それを抱き続けることは出来なかった。

貧民街に、まともなお墓なんてない。

母の遺骸だって、野良犬やカラスに食べられてしまったのに。

埋める場所もなく、かと言ってのぞみの身体を捨てることも出来ず。

僕は虚ろな目をして、ぼんやりと、変わり果てたのぞみを見つめていた。

多分、僕も無意識の間に失神していたのだろう。

気がつくと、ぐちゃぐちゃに溶けたのぞみの亡骸がなくなっていた。

僕の意識がなくなっているうちに、野良犬やカラスが持っていってしまったのか。

腐り果てた遺骸を見て、誰かが感染症を恐れて連れて行ったのか…。

だが、そんなことはどうでも良い。

大事なのは、僕にとって希望が失われたということだった。