神に選ばれなかった者達 後編

しかし、女性はそんなことも知らず。

震える手で、そのミサンガを手に取った。

「このミサンガが解けない限り、あなたと恋人は上手く行くでしょう」

「そ、そうですか…。でも…じゃあ…ミサンガが切れたら…」

「…このミサンガが切れたら、恐ろしいことになります」

「…!」

嘘だよ。

何も起きないよ。それ、ただのミサンガだから。

「だからどうか、ミサンガが切れないように気をつけてください。それでももし、切れることがあったら…」

「あ…あったら…?」

「…その時は、すぐに私のもとに来てください」

敢えて、恐怖を煽るお兄ちゃん。

お客さんの女性は、ごくりと生唾を飲み込んだ。

「は、はい…分かりました…。それで、こちらお代の方は…?」

「ミサンガのお代は、今回は結構です。あなたの幸福を祈って、サービスしますよ」

「あ、ありがとうございます…!」

…え?ミサンガを無料でプレゼントしてあげるなんて、サービス精神があるじゃないか、って?

もしそう思ったのなら、あなたも良いカモね。

これは、お兄ちゃんの戦略。

要するに、初回無料サービスってことよ。

このミサンガ、実は仕掛けがあって。

ほどけやすくなるように、あらかじめミサンガの一部を糸切りバサミで切っていて、実は今にも切れそうな状態なんだ。

この状態でミサンガを巻いても、多分一週間足らずで切れる。

お客さんは「ミサンガが切れたら恐ろしいことになる」とお兄ちゃんに脅されているから。

ミサンガが切れると、それはもう顔を真っ青にして、お兄ちゃんのもとにやって来る。

すると今度は、そこで、本命であるもっと高額のインチキ道具を売りつける、って訳。

そうやって、お客さんから巻き上げるのがお兄ちゃんの仕事。

いや…お兄ちゃんと、私の仕事。

…人を騙すようなことして、心が痛まないのか?って?

痛む訳ないでしょ。

卑怯だろうが何だろうが、こうやって稼いだお金で私は生きているんだから。

こうやって稼いだお金で、ブリオッシュだのホットミルクだのを注文したんだから。

他の誰かがなんと言おうと、私はお兄ちゃんの行為を否定しない。決して。

ミサンガを受け取り、占いの料金だけ支払ったお客さんが、何度もお兄ちゃんに頭を下げながら帰っていった。

…さてと。それじゃあ私も行こうかな。

「…お兄ちゃん。…お疲れ様」

隠れていた物陰から、姿を現しても。

「やぁ、のぞみ。お帰り」

勿論、お兄ちゃんはまったく驚かなかった。