神に選ばれなかった者達 後編

私とお兄ちゃんが住む、貧民街まで帰った頃には。

既に、外は暗くなり始めていた。

お兄ちゃん、また心配してるかなぁ…。

念の為今朝は、しっかりとお兄ちゃんに伝えてきた。

もうね、連呼したから。

「今日遅くなるからね!遅くなるから!」とか。

「心配して、探しに来なくて良いからね!」とか。

しつこいくらい伝えて、家を出た。

だから大丈夫だと思うけど…。自然と早足。

…しかし、今日のお兄ちゃんは…。

「むっ…!これは、良くないですね…」

「ほ、本当ですかっ?」

「はい…。このままでは、数年以内に破局しますね」

「…!」

などという、何やら不穏な会話が聞こえてきた。

片方は私のよく知る声、もう片方は知らない女性の声だった。

私は思わず、こっそりと声のした方を確認した。

すると、そこには。

お兄ちゃんが小さなテーブルと椅子を置いて、女の人と向かい合って座っていた。

その時のお兄ちゃんは、黒いスカーフを頭に巻いて、いかにもな格好をしていた。

あれはお兄ちゃんの仕事着である。

そこで神妙な顔をして、お兄ちゃんはテーブルの上に置いたコップを睨んでいた。

コップの中には、水が入っていた。

ガラスの水晶玉と並ぶ、お兄ちゃんの仕事道具の一つだ。

「はい…。間違いありません。恋人に捨てられ、涙を流すあなたの姿が見えます」

「そ、そんな…」

絶望する女性。

…詳しいことは分からないけど、恋愛占いをしているのだろうか。

今の恋人と上手く行くでしょうか?みたいな…。

ちなみに、お兄ちゃんはあの水の入ったコップを、神妙な顔つきで睨んでいるけど。

別に何も見えてないから。

あのコップは、その辺に落ちていたのを拾ったものだし。

コップの中の水も、聖水なんかじゃなくて、ただの水道水。

それなのに、お兄ちゃんの堂に入った演技のお陰で、何だか本物の占い道具っぽく見えるから不思議。

「ど、どうしたら良いですか…?どうすれば…。私、別れたくないんです…!」

「大丈夫です、落ち着いてください…。まだ方法はあります」

「な、何をすれば良いんですか?」

「このミサンガを、左の足首に巻きなさい」

と言って、お兄ちゃんは細い組紐…赤い色をしたミサンガを、女性に手渡した。

「こ、これは…?」

「生贄に捧げた動物の生き血で染め、祈りと共に織り上げた糸で編んだミサンガです。特別な力があります」

「…!」

分かってると思うけど、これも嘘っぱち。

あのミサンガは、お兄ちゃんの手作り。

私も編むのを手伝ってるから、よく知っている。

100円ショップで買ってきた赤い糸を、お兄ちゃんとお喋りしながら二人で編んだミサンガだよ。