神に選ばれなかった者達 後編

美味しいのは、飲み物だけではない。

次に私は、ぶりおっしゅ、なる食べ物に手を付けることにした。

写真で見ると、丸っこい黒い塊にしか見えなかったけど…。

…実物を前にしても、丸っこい黒い塊にしか見えないわね。

為しに、匂いを嗅いでみる。

見た目には似つかわしくない、芳ばしくて美味しそうな匂い。

フォークの先で、ちょこっとブリオッシュを押してみると。

うわ。ふわふわしてる。

マフィン?パン?みたいな感じ?

何だか食べられそうな気がしてきたわ。

しかし、他の女友達は。

「これ…食べられるのかな?」

「タルト生地もカスタードクリームも、果物も全部黒いわ…」

「イカスミ…?イカスミ味なのかな…」

…さぁ。

百聞は一見に如かず、一見は一食に如かず、よ。

私は、フォークでブリオッシュを切り分けた。

「えっ。のぞみ、まさか食べるの?」

私の躊躇いのない行動を見て、女友達がびっくりしていた。

何よ。食べるわよ。

食べ物は食べる為にあるのよ。当たり前でしょ。

「当然でしょ。自分で注文したんだから」

残そうが、カラスや鳩の餌にくれてやろうが、お金は取られるんだから。

それなら、せめて自分の胃袋に収めるわよ。

例え不味かったとしても、それが食べ物である限り私は食べるわ。

食べられるものを粗末にするのは、私の流儀に反する。

ブリオッシュを切り分けると、表面だけでなく、なんと断面まで真っ黒だった。

…何だか、炭の塊みたいね。

私はその柔らかい炭の塊みたいなブリオッシュを、ぱくりと口に入れた。

…!

「ど…どう?のぞみ…」

「イカスミの味、する…?それとも黒ごま?」

「硬い?変な匂いする?」

恐る恐る尋ねる女友達。

…まさか。

「…物凄く美味しいわ、これ」

「えぇっ…。本当?」

嘘ついて何になるのよ。

見た目は真っ黒なんだけど…味は、凄くリッチ。

高級感溢れる味がする。

たっぷりのバターと砂糖、そしてふわふわとした食感。

黒いカスタードクリームをつけて食べると、この世のものとは思えないくらい美味しい。

こんな美味しい食べ物が、この世にあったなんて…。

どうしよう。泣きそうになってきた。

何とか涙を堪えながら、噛み締めるようにブリオッシュを一口一口味わう。

あぁ、お兄ちゃんにも食べさせてあげたい。

こっそり持って帰っちゃ駄目かしら?

「のぞみって、勇気あるよね…」

「躊躇いがないって言うか…」

何か文句でもあるの?

あなた達が臆病なのよ。

しかし、そんな彼女達も、恐る恐る注文したメニューを一口食べると。

途端に顔を輝かせるのだから、現金なものである。