神に選ばれなかった者達 後編

信じられない。信じられない値段だわ。

だってほら、見て。

『ブラック・カフェ』おすすめのブレンドティー、一杯800円とか。

期間限定ブラックカルツォーネ、一皿1800円とか。

こちらも期間限定のブラックミルフィーユ、一皿1600円。

何なの?この限界突破した値段は。

…かるつぉーね、って何?

「…?のぞみ、どうしたの?」

「え、えぇっ?」

「さっき何か言ってなかった?『たっ』って…」

き、聞かれてた?

「えっ、えっ、たっ…た…。…た、退屈しないメニューだなーって思って」

これは事実である。

私は真っ先に、値段に目が行ってしまったけど。

それ以上にインパクトが強いのは、このメニュー表にでかでかと掲載されているメニューの写真。

本当に真っ黒なのよ。

お店の外観だけじゃなくて、メニューまで真っ黒。

紅茶も、ミルフィーユも、かるつぉーね、って商品も全部真っ黒。

凄い…。これ、食べ物なの…?

私が昔食べてた、貧民街の生ゴミもこんな色してたよ…。

こんな食欲そそられない見た目で、購買意欲までそそられない値段…。

…何でこのお店、こんなに繁盛してるんだろう…。

かなり失礼なことを考えてしまっている。

「だよね〜。何もかも真っ黒で面白いもん」

「見てるだけでも楽しいよね」

食べ物を「面白い」とか「楽しい」って表現するの、間違ってない…?

私にとって食べ物は、「面白い」でも「楽しい」でも、「美味しい」でもない。

食べられるか食べられないか。これだけが全てである。

真っ黒でも真っ白でも良いよ。…食べられるものなら、何でも。

でも、この値段の高さは如何ともしがたい…。

メニュー表に穴が開くほど、よくよく確認する。

一番安いもの…一番安い商品…。

今月限定セールメニューの、「ブラックホットミルク」っていうののSサイズが、600円。

これが一番、安い飲み物である。

安いなんて言って良いの?だって600円よ?

600円あったら…もやしが何袋買えることか…。

あぁ、せめてお兄ちゃんにも飲ませてあげたかった…。

「私…この、ブラックホットミルクってのにするわ」

「えぇっ、のぞみってチャレンジ精神旺盛ね…」

「黒い牛乳…。さすがに無理…」

と、友達。

…あなた達、自ら黒い喫茶店に来ておいて、「無理」なんて言ってるんじゃないわよ。

大丈夫。私、牛乳なんて滅多に飲んだことないから。

黒かろうが白かろうが、何色でも構わないわ。

貧民街で鍛えた胃袋が、こんな時に役に立つとは。