神に選ばれなかった者達 後編

高校に入って、ようやく上手く行っている私のことを。

ママも、同じように喜んでくれているようだった。

…裏切れない。

自分のことも、ママのことも。

どんなに良心が傷んでも。とんでもない虚しさに襲われても。

私は、自らが作り出した幻影の「夜蛾みらく」を演じなければならなかった。

だけど、私の本質は一切変わっていない。

地味で、冴えなくて、引っ込み思案で怖がりで、弱虫で。

本当はずっと、暗闇で一人座り込んで、震えながら誰かの助けを待っている。

誰も気づかない、誰も知らない、それが私の本当の姿。

…そして。

そんな「本当の私」に、手を差し伸べてくれた人。

それが、萩原響也くんという人だった。

彼は、私の弱さを許してくれた。

私を、価値ある者だと言ってくれた。

こんな私を…守ると言ってくれた。

そして今も、彼はその言葉を違えない。

どんなに苦しくても、何度殺されても。

…彼は『あいつ』と同じだ。クラスのいじめられっ子で、クラスメイト皆から馬鹿にされている。

でも、それが何だと言うのだろう。

誰にも媚びない。自分を守る為に、他人に縋るような真似はしない。

いつだって自分の意志を強く持ち、正しいと思ったことを正しく実行する。

そんな彼の魂の、どれほど高潔なことか。

一方、他人に好かれる為に嘘をつき、自分を偽り。

挙げ句、いじめられる辛さを知っていながら、他人をいじめることで自分守ろうとする。

そんな私の、なんと醜く、卑怯なことか。

…恥ずかしい。

逃げ続け、隠れ続けることしか出来ない自分が。

恥ずかしくて、情けなくて、不甲斐なくて。

それでも立ち上がれない自分が、嫌で嫌で仕方ない…。




「ねぇ、みらく。みらくもそう思うでしょ?」

「えっ…?」

女友達の声が、深い思考にはまり込んでいた私の意識を、現実に引き戻した。

彼女は、にやにやしながら『あいつ』を指で差した。

「『あいつ』、ほんとキモいよね。不登校になれば良いのに。そう思うでしょ?」

…思わない。

そんなこと思わないよ。本当に不登校になったらどうするの?

彼の人生に、彼の家族に、どれほど深い傷を負わせることになるか分からないの?

そんな意地悪なことを言うのはやめようよ。人を傷つけるのは良くないことだよ…。

それが、私の本心だった。

でも、その本心を、私はぐっと抑え込んだ。

そして、笑ってみせた。

鏡の前で何度も練習した、お得意の作り笑い。

「えぇ、そうね」

「でしょー?」

私のこの返事に、嬉しそうな女友達。

私の態度が、どれほど『あいつ』を苦しめているか。…傷つけているか。

分かっているのに、自分が傷つけられたくないばかりに、嘘をつく。

…私は汚い。

あまりの汚さに、吐き気を催してしまいそうだった。