神に選ばれなかった者達 後編

「…」

ここまで大人しく連れてこられたくノ一さんは、エレベーターの前で立ち尽くしていた。

目玉はもう片方しかついてないけど、その目にはありありと恐怖が浮かんでいた。

ふーん、成程。

君にとってもこのエレベーターは、怖いものなんだね。

何なんだろう…。中におばけでもいるのかな?

おばけがいても何でも良いけど、鍵、開けてもらうよ。

「これ開けて。萌音と李優、これを使いたいの。鍵」

「…ハレソソ…」

「…ふーん」

どうやら、嫌がってるみたいだね。

なら、良いよ。

「李優」

「…あぁ、分かった」

萌音の言いたいことを察した李優が、ガチッ、と強く拳銃をこめかみに押し付けた。

「…ッヒ…!」

怯えるくノ一。

「悪いが、ここまでやった以上、こっちももう引っ込みつかないんでな…。死にたくないなら、従ってもらうぞ」

李優の言葉は通じていないはずだが、強く脅しをかけていることは伝わっているはずだ。

李優がこんなに怖い声出すの、珍しいね。

精一杯怖く聞こえるように、李優も必死なんだろう。

李優は元々、萌音よりずっとずっと優しいから。他人を脅すようなことは、性に合わないのだ。

李優に無理させたくないから、早いところ従ってくれないかな。

…よし、それじゃ。

萌音は、つかつかとくノ一さんに近づいた。

そして、容赦なく、そのお腹に蹴りを入れた。

女の子のお腹を蹴る。現実だったら大罪だね。

「…ッァグ…!」

「早くして。萌音、そんなに気が長い方じゃないから」

3分のカップ麺なら、何とか待てるけど。

5分のカップ麺は途中で待ちくたびれて、4分くらいで妥協して食べ始めちゃうタイプだから。

「もう少し、痛い思いした方が良い?」

そう聞いて、何度も殴打を繰り返す。

お腹と、それから顔を中心に。

人間の急所だからね。

この人が人間とは限らないけど。

「ほら、早く。早くしないとうっかり殺しちゃうかもよ?」

「レクテメヤ…テメヤヤ…!」

「だから、何言ってるのか分かんないって」

早く言うこと聞いてよ。殴る方だって痛いんだから。

床に引き倒して、なおも顔を殴打し続けると。

やがて、くノ一さんは観念したように。

懐を、ごそごそと漁り始めた。

そして取り出したのは、金色の小さなヘアピンみたいなもの。

…何それ?

新しい武器かと思って、萌音はその手を思いっきり踏みつけた。

「…ッァガハ…!」

バキョッ、って音がしたから、手のひらが砕けちゃったと思う。

「それは何?新しい武器?毒?」

自決しようとしてる?それとも、萌音達を殺すつもり?

殺されるつもりはないなら、もしそっちがその気なら…。