神に選ばれなかった者達 後編

萌音の毎日の記録は、今では数え切れない数のノートの山になっている。

毎日寝る前に、せっせと机に向かってペンを動かしていると思ったら。

勉強じゃなくて、今日の記録をつけているだけ。

真面目に見えて、実はそうでもない萌音ちゃん。

萌音の日記癖については、パパとママも知っている。

萌音が収納ボックスに、大量のノートを入れていることも。

そのあまりの多さに、若干辟易しているようではある。

それに、他の兄弟達も、いつも私の行為を不気味そうに眺めている。

「うわぁまたやってる…」みたいな。

やるよ。

萌音はやる。

むしろ、皆毎日、怖くないの?

皆は萌音と違って、一日に起きたことのほとんどを、その日のうちに忘れちゃうんでしょ?

忘れるのって、怖くない?

大事なこと、覚えておきたいこと、その時どんな風に思ったのか、自分がその時何を言って、誰に会ったのか。

それらを忘れて生きていくの、萌音にとっては怖いことだ。

だから、いつか忘れてしまったとしても、ノートを見ればいつでも思い出せるように。

こうして、記録にして残しておくんだ。

覚えているうちに、全部。

今日は午前六時半に起きて…。朝ご飯に目玉焼きとパンを食べて…。

午前七時半に家を出て…いつも通り、学校に行く途中に李優に会って…。昨夜の夢の話をして…。

学校に着いたら、下駄箱の中に李優宛てのお手紙が入っていて、そのお手紙を見てまほろ君が大騒ぎして…。

午前中の授業の内容を書いて…それからお昼にお弁当を食べて…。今日のお弁当のおかずはミートボールで…。

午後の授業も同じように記録して、それから放課後。

今日の部活、楽しかったな。

朝、下駄箱に入ってた李優宛てのお手紙の内容を巡って、大騒ぎして。

って言ったら、李優は「冗談じゃねぇ」とか言いそうだけど。

お手紙の内容如何よりも、そんな他愛のないことで、皆で大騒ぎ出来る。

このことが、萌音にとっては凄く新鮮で、楽しい。

ちょっと前までは、全然予想も出来なかった楽しみだった。

ここ最近の萌音の日記帳は、いつもそんな感じ。

夢の中の記録は、何年も前から変わっていない。

いつだって悲惨な夢、悲惨な記憶ばかりだ。

だけど現実は、違う。

萌音にとって、凄く楽しい毎日。

特に高校に入ってから…自由研究部に入ってからは、毎日楽しい記録でいっぱいだ。

逆にそれ以前の記録は、ただの記録だった。

楽しかったことや嬉しかったことより、ただその時起きた事象だけを、つらつらと書き連ねているだけだった。

それは日記と言うより、日誌だ。活動日誌。

その日起きたことを書いてるだけ。楽しいことなんて一つもない。

そんな萌音が変わったのは、李優に出会ってから。

李優に会ったから、荒れ荒れ萌音は落ち着いた萌音になり、今の楽しい萌音になった。

だから今、楽しい記録でいっぱいなのは、全部李優のお陰なのだ。

眠ることも、もう恐れる必要はない。

だって眠ることは、夢の世界に行くということは、李優に会いに行くということだから。

好きな人に会いに行けるんだよ?

そのついでにバケモノ退治をするくらい、なんてことないでしょ?