神に選ばれなかった者達 後編

それから萌音は、お父さんとお母さんと一緒に暮らし始めた。

勿論、その時のことも覚えている。

だから萌音は後になって、文字の書き方を覚えてから。

自分が赤ん坊の時のことを、お母さんのお腹の中に居た頃のことを、全部記録に残した。

さすがに、お腹の中に居た頃は時計を見られなかったから、時刻は正確じゃないけど。

この日にお母さんこんなことを言ってもらったとか、この日にお父さんにお腹を撫でてもらったとか。

そういうことを、全部記録した。

この世に生まれて、時計の読み方を覚えてからは、正確な時間も記録するようになった。

だから、この日記帳には、全部書いてある。

◯月☓日△曜日、何時にミルクを飲ませてもらった。

その1時間後に沐浴をしてもらって、それからまたミルクを飲んで、その2時間後にお父さんが家に帰ってきて…。…みたいな。

日々の記録を、日誌みたいに書いていく。一つ残さず、どんなに些細なことでも。

萌音、って名前をつけてもらった時のことも。

名前を考えてくれたのは、お父さんだった。

その名前を初めて呼んでもらった時のことも、ちゃんと覚えている。

それから段々萌音は大きくなって、生まれて一年と少しで歩けるようになって、言葉が話せるようになって、外に歩いていけるようになって…。

どんどん世界が広がって…そして…。

…その他にも、色んなことがあった。

…色んなことがあったけど。

「…」

萌音は、その古い日記帳のとある1ページを開いた。

もう何度も、そのページ見返している。

それは、萌音がこの世に生まれた日。

萌音の誕生した日の記録。

そこに書いてあるのは、その日、生まれて初めて見た夢の内容だった。

その日の夜、萌音は、背中に翼が生えた人に出会った。

その人が、萌音に言った。

「すまない」と。

当時生まれたての赤ん坊だった萌音には、当然、その意味は分からなかった。

記憶には残っているけれど、理解は出来ていなかった。

「すまない。君は生贄に選ばれた…だから」

その男の人は悲しそうに、申し訳無さそうに、萌音に言った。




「どうか、人間の罪を償ってくれ」と。





…未だに、萌音はその意味が分からない。

だけどその翌日から、萌音は悪夢を見るようになった。

…そう、萌音は生まれたその翌日から、夢の中でバケモノと戦っているのだ。

だから『処刑場』メンバーの中では、萌音が一番の最古参。

つまり萌音は、生まれてこの方、悪夢以外の夢を見たことがない、ってことになる。

…何だか、地獄みたいだね。