神に選ばれなかった者達 後編

昨日は、学校に来たら、『あいつ』の机がなかった。

学校に来て、自分の机がなくなったのを前に狼狽えている『あいつ』を見て、クラスのリーダー格の男子がニヤニヤ笑っていた。

必死に探し回っていたけど、結局何処に隠したかは教えてやらなかったらしい。

女友達が面白半分で、『あいつ』の机何処にやったの?とリーダー格に聞くと。

空き教室に捨ててきてやったwと笑っていた。

それを聞いて、女友達は爆笑していた。

その環の中に一緒にいた私も、一緒になって笑った。

皆が笑ってる時は、自分だって笑わなきゃいけない。そうでしょ?

皆が笑ってるのに、自分だけ仏頂面してたら、顰蹙を買うじゃない。

笑いたくなくても、笑わなきゃいけない。

一昨日、『あいつ』の持ってきたお弁当に、ゴミ箱から拾ってきたゴミをぶち撒けてやった。

『あいつ』は一瞬驚いて、それから呆然と、ゴミにまみれた自分のお弁当箱を見下ろしていた。
 
その姿を見て、主犯格は大爆笑していた。

横で眺めていた私達も、呆然とする『あいつ』の顔が面白くて、一緒に笑った。

『あいつ』がお弁当箱のゴミを払って、何とか食べられる状態に戻そうとしている姿を見て、また笑った。

人を追い詰めて苦しめるだけじゃなくて、食べ物を粗末にするような行為の、何が面白いのか分からなかった。

でも、私も一緒に笑った。

だって皆が笑ってるから。私も笑わなきゃ。

三日前は、『あいつ』の上履きに画鋲を入れてやった。

気づかずに踏んづけて、痛みに飛び上がる『あいつ』の姿を見て笑った。

私も、皆と一緒に笑った。

四日前は、『あいつ』の鞄の中に、ゴキブリの死骸を入れた。

気づかずに鞄を開けて、びっくりして鞄を床に落っことした『あいつ』の姿を見て笑った。

私も、皆と一緒に笑った。

五日前は『あいつ』の教科書に落書きをして…。

その前は、『あいつ』の机の上にバケツの水をぶち撒けて…。

その前は…その前は…。

…そしてその度に、皆が笑って。

皆と一緒に、私も笑った。

どうして『あいつ』が、クラスでいじめられるようになったのか。

もう、誰も覚えていない。

多分、『あいつ』がクラスで一番地味で冴えなくて、根暗なオタクみたいに見えて。

それで、誰かが彼をからかい始めて…それがいじめになって…どんどんエスカレートして…。

…私も、そのいじめに加担した。

内心では、「やめれば良いのに」と思いながら。

やらないと、つまらない奴だって思われるから。

つまらない、空気の読めない奴にはなりたくなかった。

断ったら、今度は私がいじめられる。いじめられたくない。

そんな強迫観念が、常に頭にあった。

私は過剰なほどに、人にいじめられることに怯えていた。

高校に入学した時から、ずっとそうだった。

初めて皆と一緒に、『あいつ』への嫌がらせに加担した時。

私は、気づいてしまったのだ。

自分がいじめられない為の、唯一の方法。

それは、自分がいじめられる前に、他の誰かをいじめることだった。