屋上にて、君へ

「あれは……」


あれは何だったんだろう。

あたし自身わからない。

よく考えてみると不気味すぎない?

だって今まで

カラオケで「へー上手いね」くらいの評価しか得られなかったあたしが


15歳の時に受けたヴォーカルオーディションで

「キミ、何がやりたいの?」

的な、言葉にせずとも伝わる「落」の文字。

あの冷たい目。

審査員達が織り成す、あの辛辣な空気、温度。

呆れて笑う女(いつかきっと見返してやる!)もいたし


……そんなあたしがだよ?

王子と並んで歌うなんて、未だに信じられないよ。


「ちぃちゃんすごいな。全然気付かなかったよ。ずっとあたし達に内緒で練習してたんでしょ?」

シオたんが鋭いツッコミをいれる。痛い痛すぎます。

首を横に振るあたしに

「じゃあ才能かぁ。余計に羨ましいな」


シオたん、これね

努力でも才能でもないんだよ。


あたしどうしちゃったんだろう。でもこの声、失いたくない。

だってこの声がなかったら

あたし

きっと





藍沢先輩に振り向いてもらえないから。