屋上にて、君へ

「あの!」

あたしは思い切って王子に声をかけた。


「ん」

王子はそう言って、振り向く。吸い込まれてしまいそうなくらい大きな切れ長の瞳は、あたしの顔面を赤く紅葉させて、下を俯かせた。


「その……ヴォーカルって……どういう」

「そういうこと」


「あのっ」


あたしが言葉を言いかけたその時、すっかり忘れてたあの“ミュージック”が中庭に響いた。


「あ、予鈴」

「あ……」

散り散りになる生徒達。

まだ数人、あたしと王子のやり取りを見張る女がいるけど、あたしは構わず言葉を続けた。


「あたし、歌とか歌えませんから」

無理矢理笑顔を作るあたしに対し


「歌ってたじゃん。さっき」

いたずらに微笑み返す、王子。


なんでよー何それ勝てません。


「さっきのは……」

「千夏ぅ、授業始まっちゃうよー」

後ろから梨佳達に声をかけられて振り向くと、鼻筋が熱くなって、鼻に手をやると

「ちっ、ちぃちゃん、はなじー!」

「あぁう……」


トマトケチャップみたいなドロっとした、鼻血。


あたしはそのまま芝生にぶっ倒れた。