もし朝起きてもこの声のまんまだったら……



洗い立ての枕に顔を埋めた。ほのかに香る柔軟剤の匂いが、サバ臭いあたしと混じり合っていく。



遠くから情けない犬の遠吠えが聞こえてきた。

犬の世界にもいい声と悪い声ってあるのかな? もしそんなのがないのならあたしは今すぐ犬に変身してしまいたい。



自分のこの声に対するコンプレックスは、膨らむ一方だった。


音楽ライターをやってるパパの影響で、あたしはちっちゃい頃から音楽に囲まれて育ってきた。


素晴らしい英才教育も、わずか6歳までしか効力を発揮せず、それ以降は次々と世の天才達に抜かされていって……結局あたしはまぁなんとも中途半端な人間に育ってしまった。




『将来が楽しみね』



ピアノ教室のカバみたいなおばさん先生が、よくあたしにこう言って頭を撫でてくれてたっけ。


あの頃みたいにまた、歌を楽しく歌いたいな……。



そんなことを考えているうちに、どんどんと夢の中へ引きずり込まれていた。