キッチンリビングに響いたのはフォローのしようがないぐだぐだの歌声だった。
あたしは、驚きのあまり、持っていたケチャップをギュッと握りつぶしてしまった。
中から勢いよくケチャップが飛び出し、唖然としたあたしの顔に容赦なく飛び散る。
「ちょ、千夏あんた何してんのー。ケチャップ買ったばかりなんだからね。制服も汚れちゃったじゃないまったく」
「そんなぁ……」
壁かけ鏡には、ケチャップだらけになったアホ面の自分が写っていた。
B級ホラー映画級の嘘臭い感じが、鏡いっぱいに広がる。
はてさて――おかしい。
さっきまでの美声はどこにいったの??
気付くと喋り声も元の声に戻っていた。
やっぱりアレは夢だったの?
ケチャップが目に入りそうになったので急いで洗面所に向かった。
バシャバシャと顔を流す。
排水溝に流れていくケチャップ。
赤い渦と共に、拍手の音や少女の好奇心の瞳も流れ出ていくようだった。


