坂崎は含み笑いをするだけだったが、それからは何かと彼女に引き合わされることが多くなった。彼女は何度会っても会話が続かず、ぎこちない雰囲気が消えないままだった。
──お嬢様のご趣味は? 社長からオペラが好きだとうかがったんですが……
──ええ、その、仰る通りです
──その、好きな演目ってあるんですか?
俺は俺で“純朴で誠実な”振る舞いを指の先まで心がけていたため、距離が縮まらないのを半分諦めていた。
彼女といる時間を坂崎の調査に使いたかったが、冷たく突き放せば坂崎との関係にもひびが入る。それだけは避けねばならなかった。
それだけだ。
──椿姫と、フィガロの結婚です
──……駄目だ、どっちもわからない……
俺が大袈裟に頭を抱えると、鈴を転がすような笑い声が聞こえた。
軽く口元に手を当て、花がほころぶように微笑んでいる。
──よろしければお教えしましょうか?
──本当ですか? ありがとうございます!



