騙すなら墓場まで




 伊月さんの妻が、元清掃員だと噂になるかもしれない。

 その噂を聞いた人はどう思うだろう。どうして良家の子女と結婚しなかったのだろうと不思議に思うんじゃないか。

 不思議に思うだけで終わるならまだ良い。

 好奇心旺盛な人なら調べようとするかもしれない。そうして私が“坂崎美節”だと知られたら……。


 空調は効いているはずなのに身体が震え始めた。嫌な想像がいったん始まると坂を転がって自分でも止められない。


 ──犯罪者の娘を嫁にもらうなんて


 誰に言われたわけでもない非難が頭に浮かぶ。



 ──本当は父親の所業を知ってたんじゃないか

 ──被害者の金でさぞ優雅に暮らしてたんでしょうね

 ──自分だったら申し訳なくて生きていけないよ



 過去に世間から浴びせられた嘲笑と罵倒が、一斉に襲いかかってくる。

 耳をふさいで目を強く閉じても収まってくれなくて、むしろどんどん強くなっていく。


「伊月さん……」


 思わず呟いた言葉に、鼻で笑ってしまった。